【レビュー】小説『パダワン』:16歳で思春期のオビ=ワンの知られざる苦悩を通じ、その根本を描き出す

2025/02/14

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スター・ウォーズといえば、映画作品であるという認識の人はいまだに多い。近年はドラマやアニメのおかげで「スピンオフ」の存在も広まってきたが、それでもまだ映像シリーズだと多くの人は捉えている。だが、スター・ウォーズのスピンオフには小説もあるのだ。小説ならではの映像化という枠に囚われない描写や細かな心理描写は、映像作品よりも何倍も世界を押し広げるポテンシャルがある

本作『パダワン』はまさに小説の特性を活かした作品だ。映像作品の演技だけでは伝わりづらい思春期のオビ=ワンの葛藤や苦悩が存分に書き示されているオビ=ワンという人間の根本を描いたこの小説を読めばオビ=ワンへの解像度が跳ね上がること間違いなしだろう。このレビュー記事は小説未読の人向けになるべくネタバレを減らしているが、新鮮な気持ちで味わってもらいたいのでぜひ小説を一読してから読み進めてもらいたい。

あらすじ

オビ=ワン・ケノービ、16歳。クワイ=ガン・ジンのパダワン(弟子)になって間もないというのに、すでに師匠の訓練スタイルに苛立ちを感じていた。瞑想、瞑想ばかりで実践がない。どうにかして任務に出て、自分の実力を認めてもらいたいと切望するオビ=ワンだったが、いざ任務へ出かけようというとき、クワイ=ガンの姿はどこにもなかった。師匠に見捨てられたことに怒りを覚えたオビ=ワンは、己の力を証明するために、たった一人で任務へと出発するのだった。

たどり着いた謎の惑星で出会ったのは、フォース感応力をもつ野性的な若者たちの集団だった。彼らとともに、大自然の中で自由奔放な生活を送るうちに、オビ=ワンはもしかしたら、これこそが自分が生きるべき人生だったのではないかと思いはじめる。一方で、この惑星のフォースは何かが変だという気持ちを拭い去ることができない。深まる友情、驚くべき真実、そして新しい仲間たちに迫る脅威。すべてがオビ=ワンを、ある認めたくなかった事実へと向き合わせる――自分はそもそもジェダイになるべきではなかったのではないか?

果たしてオビ=ワンは、リビング・フォースとの繋がりを見つけ、惑星の人々を、そして自分自身を救うことができるのか?(Gakken公式サイトより引用)


その後のオビ=ワンの根底にある師弟関係


本作はまだ若き少年であるオビ=ワンの成長物語である。そしてあらすじにある通り、本作の彼はクワイ=ガンとの関係に不満を抱えている。少しネタバレになるが、その根本にあるのは、オビ=ワンがクワイ=ガンから「選ばれなかった」ことだ。ジェダイ騎士は自ら選んでパダワンを選ぶのが常であるが、本作の序盤にてオビ=ワンは、クワイ=ガンが自分を弟子に取ったのはヨーダが自分を割り振ったからだと聞く。以降、彼の中では不信感と師に見捨てられるのではという恐れが渦巻く。

ご存知の通り『EP1/ファントム・メナス』では仲睦まじい師弟関係であるのでそのオチはある程度想像がつくであろうが、自らがパダワン時代に経験したこの師弟関係の始まり方がその後のオビ=ワンの行動の根底にあると考えるとかなり興味深い。EP1にてオビ=ワンは弟子のアナキンを選んだわけはなく、クワイ=ガンからの頼みとして引き受ける。その後、『クローン・ウォーズ』にてオビ=ワンは(おそらく)ヨーダと共謀してアナキンにアソーカという弟子を割り振る。そして、EP3にてオビ=ワンは自らに課された使命として「希望」であるルークを引き受ける。彼の周りにある師弟関係はすべて自分が経験したような「割り振り」であった。『クローン・ウォーズ』が最たる例であるだろうが、明らかにオビ=ワンはその「割り振り」を肯定的に受け止めている。なぜ彼は序盤の不信と恐れからその境地に行き着いたのか・・・。それが本作の心理描写を通じて丁寧に描かれている。

加えて、オビ=ワンには師弟関係にもう一つの疑念がある。それは、クワイ=ガンがドゥークー伯爵と同じ道をたどってしまうのではないかというものだ。ドゥークーはこの物語よりも前にジェダイ・オーダーを去って「失われた20人」に加わっており、クワイ=ガンも同様に離脱するのではないかという考えがオビ=ワンの頭からは離れない。この時の彼には師弟は似た者同士であるという思い込みが見て取れる。しかし、クワイ=ガンは実際にはかつての師と同じ道をたどることはない。師弟関係の見方を改めたオビ=ワンは、やがて自分と同じ道をたどらずにルークがアナキンを救う道へと導くことになる(これがどれほど意図的かは置いておいて)。

正直なところ、クワイ=ガンとオビ=ワンの師弟関係は本作であまり多く描かれるものではない。どちらかというと、オビ=ワン自身が冒険を経て成長することでクワイ=ガンとの師弟関係を獲得していく物語である。しかし、本作を読めば、オビ=ワンの人生にあったすべての師弟関係の始まりという根本を垣間見れる。そして本作のラストを読めば、ドラマ『オビ=ワン』で「ずっとそこにいてくれた」かつての師のクワイ=ガンとの再会がさらに味わい深くなるだろう。

フォースの真理にたどり着く


あらすじにもある通り、オビ=ワンはたどり着いた惑星レナーラにて力(パワー)を使いこなす少年少女たち出会う。彼は最初それがフォースを操ることと同義だと捉えていたが、徐々に違和感を覚え始める。そして、彼はレナーラの住民の持つ真実にたどり着く・・・。この出来事は彼がフォースについてさらに理解を深めるきっかけとなった。

近年のスピンオフではフォースを多角的にとらえる試みがなされている。ドラマ『アソーカ』では、ナイトシスターたちの魔法が描かれた(元々は『クローン・ウォーズ』、より厳密にいえばそれ以前からある設定だが)。ドラマ『アコライト』では、魔女の糸(スレッド)が描かれた。そう、『最後のジェダイ』でルークが言っていたように、フォースはジェダイのものではないのだ。その力は銀河にあまねく存在しすべての生命体に宿っている。ジェダイがフォースを「支配」しようとするのは傲慢なのだ。

ジェダイ批判の文脈である『アコライト』ではその傲慢さが強調されていたが、本作の若きオビ=ワンはそのような道を選ぼうとはしない。力を独占するのではなく、銀河や力のバランスというものに思いを巡らせ、正しい道を選ぼうとする。この惑星レナーラのある特殊性は、オビ=ワンにフォースについての深い洞察を与えるきっかけとなった。一回り成長した彼なら、『アコライト』のソルのようなミスを犯さないだろう。

ある作品が批判した物事に、別の作品が回答を示す。これがスター・ウォーズのスピンオフの醍醐味である。複雑に絡み合っているからこそより味わい深い文脈が生まれる。本作がそこを目指しているのは、ハイ・リパブリックからオーラ・ジャレニというキャラを引っ張てきていることからも自明だ。スター・ウォーズは摂取すればするほど面白味が増す(ので、もっと翻訳をお願いします!)。

ややマニアックな話になるので読み飛ばしてくれてかまわないが、今回の惑星レナーラの設定は全体的に旧作(レジェンズ)小説の『ローグ・プラネット』の惑星ゾナマ・セコートを思い出させるものであった。同小説はアナキン少年と師になったばかりのオビ=ワンが未知の惑星を探索するというものだったので、オマージュや対比になっているのだろうか。こういう繋がりを垣間見るのがスター・ウォーズ小説を追っていて一番楽しい。

エリートの責任を自覚しジェダイの道を選ぶ


プリクエル三部作(EP1~EP3)には様々な功罪があると思うが、その「罪」の一つとしてジェダイの見方を大きく変えてしまったことはあるのではないだろうか。EP1にて、ジェダイはミディ=クロリアン数値の多さという生まれ持った才能に恵まれた者であり、社会から隔離されて育てられた「エリート」と描写された。それはEP4にて我々が見てきた一人の田舎者が銀河の英雄となる物語からはかけ離れている。ドラマ『アソーカ』の才能のないサビーヌがジェダイとなる展開はプリクエル三部作の修正をある程度図ったものであると私は捉えているが、それだけで十分だとも思えない。だが、本作は「エリート」たるジェダイに一つの回答を示す。

今回オビ=ワンは惑星レナーラにたどり着き、そこで今まで味わったことのないスリリングで自由な生活を過ごす。その中で彼の頭には、このままずっとこの生活を過ごすという選択肢が浮かぶ。自分がジェダイになる必要はないとの思いが駆け巡る。だが、彼は惑星レナーラで巻き起こる出来事で自覚を余儀なくされる。フォースに選ばれ、生まれ持った才能を持つ意味を

そんな中でオビ=ワンはなんとなくエリートたるジェダイの道へと進むわけではない。自由に生きる選択肢があった上で、力を持つことの意味を自覚し強い意志であえてジェダイの道へと進む。オビ=ワンが、そしてジェダイがただ恵まれただけの特権階級ではないことが示される。ある意味の「ノブレス・オブリージュ」を描く本作は、プリクエル三部作の「罪」を上手く昇華した一例だろう。

思い返せば、オビ=ワンはEP4時点で最後のジェダイの一人である。銀河が闇に支配されている中、それでも自分はジェダイであろうとした。そこまで強く自分を保てた意思の強さの根本が本作に詰まっている。

製品情報


■書名:『スター・ウォーズ パダワン 上』/『スター・ウォーズ パダワン 下』
■著者:キルスティン・ホワイト
■訳者:稲村 広香
■発売日:2025年1月16日
■定価:各1,650円(税込)

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画像は、「スター・ウォーズ」シリーズ(1977-2025年、ルーカスフィルム)より。
著者:ジェイK(@StarWarsRenmei

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ジェイK
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