- 第1話「ホントの冒険ができるかも(This Could Be a Real Adventure)」
- 監督:ジョン・ワッツ
- 脚本:ジョン・ワッツ、クリストファー・フォード
- ユーザー評価★ 7.4/10 (IMDbより)
あらすじ
新共和国時代。各地のハイパースペースルートでは海賊が跋扈していた。キャプテン・シルヴォ率いる海賊団も新共和国の船を襲う。しかし、部下の犠牲を出したにもかかわらず、前情報とは異なりその船には財宝がなかった。結果、シルヴォは部下のブルータスに反乱を起こされ、失脚する。
惑星アト・アティン。平和なこの星でウィムは平凡な日常を送っていた。仕事ばかりな父とは会話が少ないが、近所のニールとはともにジェダイごっこをするぐらいの親友である。ある日、学校にファラ次官が訪れ、「大いなる事業」での振り分けを決める適正テストが明日に迫っていることを知る。しかし、もっとワクワクする仕事に就きたいウィムはあまり乗り気ではない。そして、日常に退屈している子供がもう一人。ファラ次官の娘であるファーンは成績も優秀で学級委員長も任されていたが、今は相棒のKBとともにバイク・レースにのめりこんでいる。そして、彼女も期待を押し付ける母とは心理的な距離がある。
翌日。ウィムは寝坊し、適正テストに間に合わなかった。しかし、学校への近道を試みた際に謎の入り口を見つける。ジェダイ聖堂だと考えたウィムだが、その話を父は取り合わず、再テストに向けて勉強するよう命令する。だが、彼はニールともに発掘へと向かう。その話を横で聞いていたファーンもKBを引き連れて現れ、その入り口への権利を主張。結局男2人が掘り返すことになる。そして開いた瞬間大人の声が聞こえたため、4人は隠れるために中へ入った。それはどうやら宇宙船であった。
ニールが慌ててレバーを引いてしまい、ハッチがしまったため、KBは電源を入れなおした。しかし「子供っぽい」と非難され、一人で行動していたウィムは光ったスイッチをつい押してしまった。結果、オートパイロットが起動。四人はウィムの父に見守られながら宇宙へと上昇していき、やがてハイパースペースではるかかなたへと連れ去られたのだった・・・
ウィムと父親への反発
一話目からかなり引き込まれる作品であった。冒頭の『パイレーツ・オブ・カリビアン』のような宇宙海賊の襲来も素晴らしかったが、その後のウィムの日常の掘り下げでも各キャラが際立っていた。惑星アト・アティンについても考察したいところだが、衝撃の事実が明かされたのは第2話であったため、今回はウィムと周辺キャラについて掘り下げたい。
まず、ウィムの父親は相当よくない親である。登場してそうそう自分の持ち物がないことを息子のせいにして、さらに昼の食事もお金を渡すだけ。そしてことあるごとに「仕事が」「仕事が」「仕事が」。仕事人間である父親はウィムに基本的に無関心である。適正テストを受けなければ怒り出すくせに、そもそも適正テストの日程すら把握していない。おそらくシングルファザーであろうことを加味しても息子への向き合い方は評価できない。ウィムは親友ニールの仲睦まじい家族の様子を見て、さらに心を荒ませていく。
ウィムにとっての心の寄る辺はジェダイの物語になっていた。しかし、父親はさっさと物語から卒業しろと息子を非難。それでもウィムがおとぎ話にすがり続けているのは孤独感だけでなく、父への反発もあるだろう。父のような大人を尊敬できないからこそ、大人になるためにおとぎ話や冒険心を捨てることなどできない。鏡の自分に向かって大人になれと語り掛けるぐらい、大人になる必要性は実感しているが、そうなりたくないと思ってしまっている。結果的に彼を冒険へと駆り立てる心は、恐ろしい銀河への第一歩となる。すべての原因は父親の育て方にあるといっても過言ではない。今までのスター・ウォーズ作品と同様に、本作も家族が中心テーマとしてある。
親友のニール
そんな父との関係に不満があるウィムだが、学校には無二の親友ニールがいる。ニールはいわゆる冴えないやつである。太っているのは種族柄だとしても、クラスで片思いしている女の子にまだ一度も話しかけていない点を見るにイケてない部類だ。テストの結果を聞いてほしいと言い出すあたりは、相手によってはウザがられるだろう。
だが、ウィムにとっては一緒にジェダイごっこができる貴重な友達だ。周りの子供たちはその遊び方をあざ笑うような年頃だが、ニールは付き合ってくれる。ニールには邪心はないし、茶目っ気はある。不真面目でクラスで浮いているであろうウィムを気にかけ、テストに遅れそうになったら友達をかばうために行動してくれる。なんて良い友達だ。私の学生時代にもほしかったタイプの友人である。
ただ、ウィムとはやや根本が異なる部分が今後の波乱を呼びそうな気がしている。ウィムよりも良好な家族関係を持ち、よりまじめなニールは、家族や故郷のもとに帰りたいという気持ちが強いだろう。帰っても仲の良くない父親と落第しか待っていないウィムがさらなる冒険を望み、ニールと対立するという展開はありそうだ。
ライバルのファーン(とKB)
ファーンは本作品において、ウィムに並ぶもう一人の主人公だろう。予告編ではウィムとフラットな関係に見えたが、本編を見てみると完全にウィムにとっての姉御である。ルークにとってのハン・ソロのような存在だ。第二話でも子供たちのリーダー、「船長」としての役割を全うする。
そしてこの構図は、物語の根本から明らかである。ウィムはバイクで大胆なショートカットをするファーン(&KB)に憧れのまなざしを向け、彼女たちを見たことがきっかけで自分も遅刻寸前でショートカットを試み、あの船を発見した。この物語は、姉御たるファーンのイカした行動がなければ始まらなかった。
一方で、姉御であるファーンもウィムと同様に家族に問題を抱え、そして同様に自分の敷かれたレールに不満を持っている。ウィムの父親は無関心であったが、ファーンの母ファラ次官は正反対の過干渉を繰り返す。自分の娘が優秀でなければ気が済まず、彼女を勉強へ縛り付け、学級委員長にとどまらせようとする。そんな母に反発を覚え、ファーンは現実逃避をするようにバイクへとのめりこんでいく。同じような問題を抱えるファーンとウィムは相互に影響を及ぼし、やがて成長を遂げるだろう。
KBの描写は少なかったが、ファーンのいたずらに付き合いはするものの時に思いやりを見せる心優しい少女であり、機械に対して4人の中で最も博識なことはうかがえた。ここから肝になってきそうなのは、そのゴーグルだろうか。バイクに乗った少年がファーンに絡んできたとき、真っ先にゴーグルを装着していたところから、彼女はシャイでありゴーグルに頼って自分を守っているようにも見える。クラスで孤立していた彼女にファーンが声をかけることで仲良くなったのかもしれない。また、ウィムが宇宙にまたたく星を「惑星」だと誤認していた場面で、KBが「恒星」だと訂正した場面も印象的だった。KBとウィムの間には知識量にも大きな違いがありそうだ(もっとも4人は星空を見たことがなかったはずなので、ウィムが知識不足というよりはKBが博識であるということだろうが)。
スター・ウォーズ作品で子供が4人もメイン級を張ることは珍しい。この4人の子供たちがどのような成長を遂げ、そこにどうジュード・ロウ演じるジョッドが絡んでくるか注目である。
豆知識
ヴェインの再登場
シルヴォ船長の海賊団の中には、『マンダロリアン』シーズン3に登場したニクトの海賊ヴェインの姿が見える。ヴェインは本来『マンダロリアン』で死亡する予定だったが、本作に登場させるために生き残らせたとのこと。彼は同作では海賊王ゴリアン・シャードの手下だったが、転職したようだ。
グレーミルク
ウィムが朝食のシリアルに入れているのはスター・ウォーズでおなじみのブルーミルク・・・ではなく色が異なるグレーミルクである。
ニールの種族
何度も公式が強調しているが、ニールはマックス・レボの種族ではない。総指揮のワッツ&フォード曰く「広い銀河なんだから青い象みたいな種族はたくさんいる」、「鼻が長くない人間みたいな種族はいくらいても気にしないのに、似ているからって同じだと思うのは人間中心主義でしょ」とのこと。
RXシリーズ・パイロット・ドロイド
ウィムたちが登校時に乗るスクールトラムの運転手は、RXシリーズ・パイロット・ドロイド。ディズニーランドのアトラクションだった(旧)スターツアーズにて、スタースピーダー2000のパイロットを務めたレックスの型のドロイドである。
「大いなる事業」
ファラ次官は、子供たちは将来共和国のために「大いなる事業」に奉仕すると語る。実はこの単語は初出ではなく、書籍シリーズのハイ・リパブリックにて共和国を確固たるものにするための公共事業がこう呼ばれていた。スターライトビーコンもこの事業の成果の一つであり、アト・アティンとハイ・リパブリック時代は関係性があるかも・・・?
『ホリデー・スペシャル』のサーカス団
ニールの家で流されていたサーカス団のホログラムは、スター・ウォーズ史上最大の黒歴史として悪名高い、封印されし1978年のTV映画『ホリデー・スペシャル』のオマージュ。当時の映像は使えなかったため、なんとわざわざ衣装を再構築したとのこと。
ファーンを煽る少年の名前
ファーンのジャケット
ファーンのジャケットはリバーシブルになっている。学校やレース中は裏返しに来ており、家では母親にばれないように表向きで着ている。
【ドラマ『スケルトン・クルー』のレビュー記事】
筆者:ジェイK(@StarWarsRenmei)
画像は、「スター・ウォーズ」シリーズ(1977-2025年、ルーカスフィルム)より。ユーザー評価は、記事執筆時点