- 第8話「アコライト(The Acolyte)」
- 監督:ハネル・カルペッパー
- 脚本:ジェイソン・ミカレフ
あらすじ
コートシスのマスクを被ったオーシャはビジョンを目撃し、メイがソルを殺すことを予知する。それを阻止するため、メイは一時的にストレンジャーと手を組み、二人で惑星を旅立つ。それを見守る怪しい影。
一方、オーシャに扮したメイを捕らえたソルは、すべての元凶の惑星ブレンドクへと向かい、双子が「フォースの集中」で造られたことを証明しようとしていた。しかし、ピップを手にしたメイに逃げられ、バジルには妨害され、二人のそれぞれの船はブレンドクへと墜落する。
コルサントではヴァーネストラ・ロウがジェダイに懐疑的なレイエンコート議員の糾弾を受け、政治的な危機に陥っていた。犯人を突き出さなければ元老院でジェダイが批判されることになる。そこに、モグ・アガナが吉報をもたらす。ブレンドクにソルがいることが明らかになった。ジェダイの一団を引き連れ、ヴァーネストラもブレンドクに向かう。
ブレンドクでは、ソルがメイを捜し、その二人をストレンジャーとオーシャが追うという構図になっていた。ストレンジャーは一足先に廃墟に入り込み、ソルと刃を交える。一方、オーシャと再会するメイ。メイはソルが全ての元凶だと事実を明かすが、オーシャは信じない。この二人も肉弾戦へと突入する。
ソルによって追い詰められたストレンジャー。だが、そこにメイが割って入る。そして会話の中でソルは彼女たちの母であるマザー・アニセヤを殺したことを認めた。その言葉をソルの口から聞き、ショックを受けるオーシャ。だが、ソルは詫びようとせず、オーシャのフォース・チョークで殺された。彼女の手に握られたライトセーバーのクリスタルは出血(ブリーディング)によって真紅に染めあげられた。
そして到着するヴァーネストラ。彼女はストレンジャーが生きていたことを知る。ストレンジャーはマスクを被って隠れ、ソルの死体に話しかけるヴァーネストラを見守る。双子はジェダイから逃げ、あの木の下で和解を果たす。ジェダイが迫る中、オーシャはメイの記憶を消して自由にする代わりにストレンジャーの弟子になることを約束する。
ジェダイがメイを捕らえた時には時すでに遅くメイの記憶はなかった。ヴァーネストラは、ソルに詫びつつ、今回の事件のすべての罪を死んだソルにかぶせた。そして、かつての弟子だったストレンジャーを止めるためにメイに協力を仰ぐ。
あの謎の惑星の海岸線では、オーシャとストレンジャーが二人夕日を見つめていた。お互いの手を握り、二人は銀河への反抗を続ける・・・
双子の再会と決別
シーズンの最終話である今回を見終わって、強い爽快感を覚えたことに驚いた。ソルを含め、ジェキも、(私が熱狂した)ヨードも、メインキャラたちが大勢死んだにも関わらず、一つの旅の終わりとしての感動、そして次の物語の始まりとしての期待感に胸がいっぱいとなった。
今回の終わり方で、この物語はメイとオーシャの"双子"の物語としての側面を強めた。メイが落ちていったあの穴から自らの力で這い上がり、オーシャを説得して今度は二人そろって降りていく描写は過去編を踏まえた回答になっていた。そして、その後の二人の木の下でのシーンは特に印象に残った。オーシャはメイに疑ったことを詫び、メイは過去の反省からオーシャの行く道を尊重する。オーシャはストレンジャーを選び、彼を裏切ったメイは代償として記憶を失い、二人は別れを告げる。オーシャは闇堕ちしが、双子の和解と別れへの強い思いが伝わり、悲劇的よりも感動的という言葉の方が相応しかった。本作が悪役の視点からの物語であるという言葉が腑に落ちた。
オーシャはジェダイとしての縛りが故に感情をひた隠しにしてきたが、本心ではメイを強く恨んでいた。あの事件で生まれたメイに対する負の感情が、自らをジェダイ失格に追い込んだと考え、魔女の家族も、ジェダイの家族も、メイのせいで失ったと憎しみをつのらせていった。私はオーシャがメイに無関心すぎる、家族を捨てようとするのか、と指摘してきたが、ここまでメイへの無関心を貫いていたのはそんな感情をひた隠しにするためだったのだろう。ストレンジャーに煽られ、さらにマスクで自分の感情と向き合ったことでオーシャの感情は抑えられなくなり、とうとう双子はこぶしを交えることになる。この時点でソルをまだ慕っているオーシャはメイの言葉に耳を傾けようとしない。
しかし、ソルの口からあの真相が語られる。オーシャとメイの母を殺したのはソルだった。つまり、オーシャから魔女の家族を奪ったのも、ジェダイの家族を奪ったのもソルだ。先ほどまでメイに向いていた怒りはソルへと向き・・・そして彼を絞め殺すに至った。双子を引き裂いた元凶はソルであり、善人にもたらされた悲劇という点で、まさに悪役の物語としてふさわしい展開だった。
オーシャは、メイに祝福されつつストレンンジャーを選んだ。二人は手を強く握りしめて、自分たちを否定する銀河に二人で立ち向かうことを決める。ロマンチックと呼べるほど美しいエンディングだったが、同時にその爽快感に流されてよいのか考えてしまう。オーシャは感情に身を任せ、クリスタルを流血させ、真紅の刃を手にした。青から赤へと変わった刃は、ジェダイの掟を捨てた彼女がもう戻れないことを雄弁に語る。オーシャはジェダイに追われる身へと落ちてしまった。
ストレンンジャーは彼女を支える立ち位置ではあるが、弟子が欲しかった彼は内心その堕落を喜んでいることだろう。実際にストレンンジャーは、手を差し伸べているように見えて常にライトセーバーを差し出していた。最後の場面もオーシャの手をただ握っているのではない。二人の間にはライトセーバーがあり、彼女がその刃を離さないように強制しているようにも見える。ストレンンジャーによって見事に暗黒面へと誘導されたオーシャ・・・。そう、オーシャは再び「弟子を欲するもの」の手によって、姉と引き裂かれる。そう考えると、やはりこれは悲劇的な結末に思える。
その悲劇を強化するのが、ダース・プレイガスの登場だ。彼は洞窟に潜み、旅立つ二人を見つめていた。つまり、この物語はストレンンジャーとオーシャの二人きりのラブラブな逃避行ではなく、シスの暗黒卿という強大な存在の「大いなる陰謀」の一部である。オーシャは利用されているに過ぎない。さらに踏み込んで、ストレンンジャーがプレイガスの弟子だと考えると、オーシャは正式な弟子ではなく、アコライト(従者)に過ぎないこともわかる。彼女は、同じくアコライトのヴェントレスのように使い捨てのコマなのだろう。そして、プレイガスの弟子としてパルパティーンの名前ばかり知られているということは、ストレンンジャーも、この銀河に名を残さないような無残な死を迎えるであろう。
今まで物語を何度もひっくり返してきた本作『アコライト』。シーズン2を見れば、このシーズン1のエンディングへの爽快感すら失われるのではないかという期待と恐れがある。銀河の中での双子の立ち位置を明確にするためにも、ぜひシーズン2を作ってもらいたいものだ。
ソルの涙
本作の主人公だったマスター・ソル。思えば、彼への印象も随分と変わった。最初は太陽のように優しく微笑みかけるその顔が印象に残ったが、最終話の後ではその血走った目しか思い出せない。特に今回は彼の戦い方が「汚く」感じた。感情をむき出しにした表情。そして、ストレンンジャーの腕をつかみ、二人のセーバーが入れ違いになった場面では、彼の顔が真紅の刃に照らされる。自分の闇に飲みこまれそうな雰囲気であった。
そして何より彼への好感度は、「罪」を認めないことでダダ下がりだった。メイに迫られマザー・アニセヤを殺したことを認めた場面。彼は一言も詫びようとしない。「正しかった」。「仕方なかった」。アニセヤがオーシャをジェダイにすることを認めようとしてうたと彼女の最期の瞬間に知ったはずなのに、彼は自分が過ちを犯したと認められない。それは、やはり彼が弱い存在だからだ。自分の行動を正当化しようとする。
ソルの言い分は理解できないものではない。「双子は目的をもって不自然な方法で作られた。だから利用されるはずだ」。『バッド・バッチ』などで造られたクローン・トルーパーの悲劇が描かれてきたからこそ説得力はある。だが、実際のアニセヤは(ほだされた面はあるだろうが)母として双子の幸せを祈っていた。それを認められないのは、彼自身に「子供は親の愛の結晶である」という固定観念が植え付けられていたのかもしれない。ジェダイとして血のつながらない子供と絆を育むはずの彼が、そのような考えを持っていたのであれば皮肉なことだ。
ソルはまさに父親的な面が強かった。第一話では父性溢れる笑顔でオーシャを安心させ、第二話では夜遊びでタトゥーを入れたオーシャに咎めるような、しかしそれも認めるような反応を見せていた。それは最初は「父」として好感を覚えるものだった。だが、徐々に雲行きが怪しくなり、最終話を経て彼は自分の考える幸せの形以外を認められない「毒親」にすら思えるようになった。オーシャはジェダイになりたいはずだ、と自分の考えとオーシャの気持ちを混同し、自分の敷いたレールを歩ませようとする。
本作における"悪役"の描き方の軸には、今までのスター・ウォーズと同じ「親子関係」があるだろう。オーシャは「父」ソルを殺し、ストレンジャーは「母」ヴァーネストラに怯え、逃げ隠れを試みる。今まで親子愛の善性が強調されてきたスター・ウォーズをひっくり返し、見事に悪役からの視点としている。
ただここまでソルを非難してきたものの、私の脳裏には彼の死に様に流した涙がこびりついている。「これでいい」。そう言いながら、オーシャに殺されたソルは何を思ったのだろうか。苦しみか、諦念か、罰が下ったことへの喜びか、娘の成長への感動か。いずれにせよ、ソルの涙からはオーシャを責め立てるような感情は見受けられず、その暴力を受け入れていた。そして、彼は首を絞められる直前に伝えようとしていた。「愛していた」と。ソルは最後の最後まで悪人ではなく、父親であった。
愛に飢え、孤独にさいなまれ、ジェダイに失望したオーシャ。ソルが愛していることをもっと早く伝えていればここまで悲劇的な結末にはならなかっただろう。だが、彼らはジェダイであり、それは禁断の感情であった。もし二人がジェダイの師弟ではなく、本当の親子だったら・・・。オーシャが普通の娘として、ジェダイになりたいのではなく今は愛してほしいと素直に伝えられたら・・・。娘の幸せを何よりも願うソルは、きっとあの笑顔で娘の成長を受け入れただろう。だが、現実ではお互いに掟に縛られており、二人とも気持ちを語れなっかった。これは確かにジェダイによってもたらされた悲劇なのだ。
ヴァーネストラが見せる「ジェダイの生き様」
本作で中間管理職として"暗躍"してきたヴァーネストラ。彼女は、今回もフルに力を活かし事件の隠蔽を主導する。思えば彼女は政争に明け暮れる官僚的・政治家的なジェダイとして描かれていた。プリクエル三部作で「官僚的すぎる」との懸念からメイスの部屋から取り除かれた机が、彼女の部屋にはある。もはやヴァーネストラは正義の騎士ではなく、組織のためにと手を汚す政治家に成り果ててしまったのか・・・。との批判が目立つが、私は少し違った印象を受けた。
今回のヴァーネストラはレイエンコート議員から激しい攻撃を受ける。議員の主張は感情に流された場合のジェダイの危険性だ。そんな中で、「実際に感情に任されたジェダイが表れた(がジェダイで対処できた)」という風に隠蔽するのは、議員の懸念を現実にするものであり、官僚として政治家として悪手のはずだ。実際にジェダイ・オーダーは外部調査を受けるという結果になってしまった。本当に隠蔽するのならば、メイを突き出す方が手っ取り早かったのではないか?記憶が消えているので尋問から出たらまずい情報が出ることもないわけで。
つまり、ヴァーネストラはジェダイ・オーダーとメイを天秤にかけて、メイを選んだ。彼女を突き出し、すべての罪をかぶせることは簡単だ。実際に今回の殺人事件は彼女の犯罪である。だが、元々は被害者であり今や記憶の無いメイを収監するのは果たして善なのか?結論として、ヴァーネストラはあれだけ守ろうとしていたジェダイをあっさりと捨て、記憶を失ったメイを守る別の真実を作り出す。それは、オーシャを救おうと事件を隠蔽したソルと同じ行動だ。
思えば、隠蔽はジェダイの十八番であった。クローン軍誕生の秘密や自分たちの力が弱まっていることを隠したヨーダ。ヴェイダーがルークの父親であることを隠したオビ=ワン。数多くのジェダイが隠蔽したり、「ある視点からの」という都合の良い枕詞を持つ「真実」を活用したりしてきた。今回のヴァーネストラも、その一例である。すなわち、これこそがジェダイの生き様なのだ。真実を曲げようが、自分の信じる正義のために邁進する。特に今回のヴァーネストラからは自己犠牲も垣間見えた。あんなに守ろうとしていたジェダイの権威や友人だったソルの評判を犠牲にしてでも、たった一人を庇おうとした。
隠蔽や手続きの無視は民主主義の軽視に他ならない。人民の代表である元老院への嘘の報告によってジェダイがどれだけ議会を信用していないかが浮き彫りになる。彼らが民主主義の守護者としての地位を失っていくのは当然の流れだっただろう。そして、本作のジェダイの人間らしい弱さがこの流れを加速させてしまったのも間違いない。
だが、そこからは自分よりも他者を優先するという善性が垣間見えた。インダーラはたった一人の未来を守るために危険を冒して隠蔽を主導した。トービンはあれほど自責の念に苦しんでも最後まで「真実」を守り抜いた。ソルも歪んでいたとはいえ確かにオーシャを愛し救おうとしていた。本作はジェダイの弱さとそして善性を描いていた。このヴァーネストラの行動は、そんな本作を締めくくるにふさわしいジェダイの在り方を表したものだっただろう。ジェダイを批判するとした本作だったが、ジェダイの生き様をさらに深く描くことで、彼らへの思いを深めてくれた。
豆知識
「地獄で会おう」
メイの台詞「地獄で会おう」は一般的な決まり文句ではあるが、スター・ウォーズの中では『EP5/帝国の逆襲』のハン・ソロの台詞として有名。
議員の予言
レイエンコートは「感情に流されたジェダイを止められるのか」とヴァーネストラに問いかける。彼の疑念は、アナキンがジェダイ・オーダーを滅ぼしたことで現実となる。未来を予知したかのような正しい疑念だ。
ダース・プレイガス
謎の惑星に隠れ、オーシャとストレンジャーを見つめていたのはパルパティーンの師匠であり、賢人として知られるダース・プレイガス。総指揮のヘッドランドが明言した。レジェンズ時代の設定ではプレイガスはムウン種族であり、本作のプレイガスの容姿もムウンに似ている。また、その目は黄色の瞳、いわゆる「シス・アイ」でもあった。
Strike Down
ストレンジャーは、メイに対して「怒りを持って打ち倒せ」とそそのかす。これはパルパティーンがアナキンに対してドゥークーを殺せとそそのかし、ルークに対してヴェイダーを殺せとそそのかしたときと非常に近い言い回し。
ブリーディング
今回、ライトセーバーのクリスタルに負の感情を注ぐことによって、クリスタルが真紅に染まるブリーディングが描かれた。これは正史になってからの設定であり、元々レジェンズ(旧設定群)では、赤いクリスタルである理由は人工のクリスタルを使っていたからだった。なお、あちこちで指摘もされているが、今回はオーシャが直接クリスタルに触れていたからブリーディングできたことがほのめかされている。『EP3/シスの復讐』でアナキンのセーバーが赤くならない描写との矛盾はないだろう。
部屋の机
ヴァーネストラの部屋には机が置かれている。これは、プリクエル三部作で没になった机のあるメイスの部屋のオマージュだと思われる。プリクエル三部作制作時に没になった理由は「官僚的だから」だった。
「闇に堕ちるまで私の弟子だった」
ヴァーネストラは、ストレンジャーについて「闇に堕ちるまで私の弟子だった」と語るが、これは『EP4/新たなる希望』のベン・ケノービと全く同じ言い回し。
最高議長の種族
本作に最高議長として登場するドレリックはターサント種族のエイリアン。『フォースの覚醒』でも、新共和国の議長としてターサント種族のラネヴァー・ヴィルチャムが登場する。
【ドラマ『アコライト』のレビュー記事】
筆者:ジェイK(@StarWarsRenmei)
画像は、「スター・ウォーズ」シリーズ(1977-2024年、ルーカスフィルム)より。ユーザー評価は、記事執筆時点