【総評】『バッド・バッチ』シーズン3:本当に大団円だったのか?オメガが救った臆病者のクロスヘアーと、救わなかったクローンたち

2024/05/26

バッド・バッチ レビュー

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『バッド・バッチ』が堂々の完結!シーズン3も見ごたえたっぷりの作品だった。語りつくせないほど良いところが多いが、今回は「オメガの持っていた二つの特殊性」、「クロスヘアーの持っていた弱点」、そして「救われなかったクローン・トルーパーたち」の三点にスポットを当て、シリーズ全体を振り返る。本作は一見すると、シーズン2の総評で私が予想したような大団円だったか、本当に大団円だったのか・・・?

        【『バッド・バッチ』シーズン3】
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二つの特殊性を持つオメガ:帝国とジェダイの敗北の理由


シーズン3を通じて際立っていたのは、オメガの特殊さだ。それは、彼女の血がミディ=クロリアンの複製に重要という展開上の特殊性だけではない。彼女はもう一つの特殊性、強烈な「個性」を持っていた。それは、周りを変化させる力だ。今までオメガは、バッド・バッチの未来を大きく変えたが、本作ではさらにその力が強調された。第一話第三話では猟犬バッチャーの心を開き、希望を失っていたクロスヘアーを奮い立たせ、姉のエメリーに良心を思い出させた(第二話ではハンターとレッカーがクローン候補生たちを変えておりオメガは間接的にも人を変える)。第七話では、子どもである彼女の存在が帝国に忠誠を誓い続けようとするウォルフの行動を思いとどまらせた。第十四話では、周りの捕らえられた子供たちに勇気を与え、彼らの勇気を引き出した。そして最終話では、脱出することでネクロマンサー計画を頓挫へと追い込み、帝国をスターダスト計画へと路線変更させた。つまり、銀河の命運をも変えた。血液という生得的な部分だけでなく、性格面でもオメガは、異端児のクローンで構成されたバッド・バッチにふさわしい特殊さを持っていた。

しかし、オメガの血だけに注目する帝国軍のヘムロック博士らは彼女のもう一つの特殊性に気づくことが出来ない。だからこそ、捕らえた子供たちとオメガを同じ部屋に監禁するという失敗を犯し、敗北する。永遠の命や繁栄ばかり求める帝国軍が、変化をもたらすオメガの本質に気付かずに敗れるというのは大きな意味のある構図だ

ところで、「生まれ持った血を重視する」といわれると、あの組織が思い浮かぶ。そう、ジェダイ・オーダーだ。ジェダイはその特殊な血に注目し、銀河の各地から生まれつき有能なフォース感応者の子供たちをかき集めた。その流れを帝国は継いでいる。第十話では、『クローン・ウォーズ』にてフォース感応者の子供たちを追っていたキャド・ベインが再登場し、かつてと同様に感応者の子供を攫う。そして、その親から引き離された子供たちは貴重な検体として「監禁」される。これは、ジェダイのやってきたこととどれだけ違うのだろうか。第九話で、ヴェントレスはオメガの特殊性に気付きつつも、家族から引き離すことを良しとはしない。たとえ引き離すのが力を得るのに最適だとしても、ヴェントレスはその道を選ばない。間接的とはいえ、本作はジェダイ批判の文脈にあった。

思い返せば、ジェダイが滅びた主因であるアナキンも、オメガと同じように二つの特殊性を持っていた。貴重な血と訓練を始めるのには遅すぎる確立された精神。だが、ジェダイはその血を重視するあまり、危険を冒してまで彼をジェダイに引き入れた。彼のもう一つの特殊性を軽視した結果、壊滅した。『EP3/シスの復讐』小説版でのヨーダの自省の台詞を思い出す。「銀河は変わった。騎士団は変わらなかった。なぜか? わしが変えさせなかったからじゃ」。ジェダイと帝国は根本は違うものの、どちらも永遠の繁栄を求めていた。だから、自分たちの尺度でしか特殊な存在(アナキン/オメガ)を計ろうとせず、変化をもたらす彼らについていけず敗北した

本作は、そんなジェダイ批判をも含んだ作品であった。ヴェントレスや感応者の子供たちの登場はその面を一層強調していた。生き残ったジェダイたちの物語は、隠された道「パス」やグローグー、アソーカを通じて現行で描かれていっている。本作は次の一歩へ向け、ジェダイ批判という文脈を作り上げていた

最後になるが、今シーズンでオメガによってもたらされた最も顕著な変化とは、ハンターの変化であった。シーズン3のハンターは一度オメガを帝国に奪われた経験から彼女に対して過保護になっていた。しかし、エピローグでは彼女の一人立ちを認め、親として大きく成長した。偶然であろうが、SWの生みの親であるルーカスが「我が子であるスター・ウォーズは一人立ちした」と受け入れていたこととも重なる。そう、変化は恐れることではなく、歓迎すべきことなのだ。そんな普遍的な真実をオメガは示してくれた。

クロスヘアーの大きな欠陥:抱き続けた恐怖


今シーズンのもう一人の主人公といえば、クロスヘアーであろう。帝国についたバッド・バッチのメンバーとして、シーズン1、シーズン2ではヴィランだった彼だが、シーズン3にてようやく部隊への帰還を果たす。だが、彼の右手の震えはずっと止まらない。彼は仲間に素直に相談することも出来ない。

この手の震えへの解釈について配信中私はずっと頭を悩ませていた。そして、第12話でそれがタンティス山に戻ることへの恐怖だと明かされたとき、私は自らの偏見を自覚した。私は、クローン・トルーパーは勇敢で死地をも恐れぬ者たちだと思い込んでいた。だが、クロスヘアーは特殊な存在で、臆病という生きづらさを抱えているのだ。彼が後方支援のスナイパーとして人一倍優秀なのは、彼が人一倍臆病であるという負の側面に支えられていたのだろう

そう思うと、彼の今までの行動も腑に落ちた。彼が帝国へと忠誠を尽くしていたのは怖かったからなのだ。命令を無視し出奔するより、思考を停止させ大きな組織の流れに身を任せてしまう方がはるかに楽で勇気もいらない。一歩を踏み出す勇気が足りず、彼は帝国に囚われていた。

シーズンを通して、クロスヘアーはこの恐怖とそれがもたらしてきた失敗に向きあった。第五話では仲間が殺された忌まわしき過去がある前哨基地へと戻り、帝国に従った自らの過ちを認めた。そして、死の匂いを嗅ぎつけ彼の上を飛び回るハゲタカからようやく解放された。第八話ではオメガと共に瞑想をすることで、自分の心の問題に向き合い、そして自分が一人ではないと知ることが出来た。第十二話では自らの失敗でオメガを失い、第十三話では自分の恐怖をさらけ出してでもオメガを救いたいと最後の戦いに身を投じることを覚悟した。

第十四話では「優秀な兵士は命令に従う」への答えが示された。クロスヘアーはランパートからの問いにこう返す。「それは誰の命令かによる」。彼は仲間と共にあることで、クロスヘアーは恐怖の象徴であるタンティス山へ進むことが出来た。仲間を再び得ることで、恐怖を受け入れ、それに抗う術を手に入れたのだ。

最終話で、クロスヘアーは震える腕を切り落とされる。複数の解釈があるだろうが、これは彼が一人で恐怖を抱え込まなくなった象徴だと捉えた。今まで彼は恐怖を内に閉じ込めよう、その腕に封じ込めようとしてきた。だが腕を失い、彼はようやく素直に恐怖を打ち明ける。そして、ハンターに支えられ、オメガに勇気づけられ、見事ランパートを打ち倒した。腕がないという欠陥をも成功の一助になるという展開は、欠陥を活かすバッド・バッチの物語に相応しい終わり方であった

クロスヘアーは、難解なキャラクターであった。思っていることをなかなか口に出さず、周りから共感しにくい。抱えてい感情を推し量りにくい。だが、現実でも他人の見える部分はごく一部に過ぎず、これこそリアルな人間性なのかもしれない。難解な人間ドラマを見事な演出で巧みに描いた本作の制作陣は称賛に値する。

救われなかったクローン・トルーパーたち:戦いはこれから


本作は表面上は大団円であった。オメガとバッド・バッチは全員生還し、パブーという新たな故郷も得た。だが、考えれば考えるほどモヤモヤする。救われないクローン・トルーパーたちがいるのに、これはハッピーエンドなのだろうか

最終話に帝国側のクローン・トルーパーとして登場したクローンCXやクローン・コマンドーのスコーチは、バッド・バッチに殺された。スコーチはまだ自由意志があるとはいえ、クローンCXは洗脳された被害者たちだった。その中身は同じクローンであることが何度も示され、第七話でCX2が語ったように、クロスヘアーと同じような立場の者たちであった。だが、バッド・バッチは兄弟である彼らを救わなかった。

彼らが救われるに値しなかった理由は、見当たらない。つまり、この物語は兄弟を失っており、完全なる「ハッピー・エンド」ではないのだ。帝国が力をさらに増していく中で、オメガやバッド・バッチにできたのはほんの少しのクローン・トルーパーを救うだけだった。よくよく考えれば、この暗い時代に全員が救われるという終わり方はあり得なかったのかもしれない。この作品より後の時代を描く『反乱者たち』に再登場したレックスは戦いに疲れ果てていた。『オビ=ワン』ではクローンがホームレスになっていた。暗い終わりは必然だった。

だが、「クローン・トルーパーの物語」がバッド・エンドで終わったわけではない。『バッド・バッチ』シーズン2で帝国から離脱したコーディのその後も、エコーがなぜ『反乱者たち』で影も形もなかったのかも説明されていない。クローン・トルーパーの物語は、まだ終わったわけではない。

戦いはこれからだ」。そう本作のエピローグも雄弁に語っている。本シーズンで兄弟を救いきれなかったオメガは自分たちがまだ救えていない存在が多いことを自覚している。だからこそ、反乱軍の呼びかけに応じ、銀河を救おうと旅立つ。そして、反乱軍は帝国を打倒して銀河を解放し、「ハッピー・エンド」を手に入れる。本作は、その終わりへ向けた橋渡しのスピンオフであり、すべてがここで終わる必要はなかったのだ。

終わりに

本作のネクロマンサー計画もかなり興味深かった。情報を整理すると、ネクロマンサー計画は、この時点ではオメガの血液を利用してパルパティーン皇帝のクローンを作り、皇帝の不死を達成しようとする計画だったようだ。しかしオメガが逃げたことで計画が変わり、二つ以上の遺伝子を持つ人造人間ストランド=キャストを作り出す計画にシフトした。こちらも失敗し、結果パルパティーン皇帝はレイを求めることになった。ここら辺は深掘りし始めると長いので、また次の機会に。

本作はネクロマンサー計画を通じて、『マンダロリアン』やシークエル三部作に接続するだけでなく、ジェダイ批判の文脈やヴェントレスの復活を通じて未来への伏線も敷いた。そして、もちろん『クローン・ウォーズ』や『反乱者たち』といったアニメの正統な続編であった。演出やアニメーションを含めた全体の完成度は、過去作と比べると格段に向上している。今やアニメはスター・ウォーズの中心を担う重要な媒体だと改めて実感させられた。この作品の功績は大きく、今後のスター・ウォーズにさらに期待を持たせてくれた。

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筆者:ジェイK(@StarWarsRenmei

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