【レビュー・豆知識】ドラマ『アソーカ』第6話「はるかかなたで」:メタ的な視点と英雄の帰還【ネタバレ・あらすじ】

2023/09/21

アソーカ レビュー

t f B! P L

  • パート6「はるかかたなで(Far, Far Away)」
  • 監督:ジェニファー・ゲッツィンガー
  • 脚本:デイヴ・フィローニ
  • 評価:★8.5/10(IMDbユーザー評価)

あらすじ

宇宙クジラことパーギルの口に入り、別銀河への旅を開始したアソーカ・タノヒュイヤン教授。二人は、サビーヌ・レンが自ら敵方についていったことについて話し合う。アソーカはその行動を正しくないと考えているが、ヒュイヤンはそれが彼女の唯一の選択肢だったと答える。思うところがあったのかアソーカは話を中断し、ヒュイヤンに「遠い昔はるかかなたの銀河系」のおとぎ話を話してもらう。

一足先に<シオンの目>で別銀河へ旅立っていたモーガン・エルズベス一行は、惑星ペリディアへと到着する。ここは、モーガンの種族ダスミリにとっての故郷であり、パーギルにとっての墓場だ。一行は、この地の魔女グレート・マザーたちと出会う。やがて頭上には戦艦<キメラ>が現れ、スローン大提督が登場した。彼は、イノックをはじめとした、新たな軍団ナイト・トルーパーを率いていた。

スローンは、サビーヌの仲間を想う行動が理解できなかったが、彼女がベイラン・スコールと交わした約束を尊重し、エズラ・ブリッジャーを捜しに行くことを認めた。しかし一方で、ベイランとシン・ハティには再会したら二人を抹殺するように命令する。

オオカミのようなクリーチャーに乗ったサビーヌは荒野を行く。途中でならず者に襲撃されたり、クリーチャーと喧嘩したり、と色々あったが、やがて水場で反乱同盟スターバードを所持する小型なエイリアン種族ノティと出会った。彼らに導かれ、エズラの元へと向かう。

一方のベイランとシンはサビーヌを追跡していた。ベイランは、破壊と台頭が繰り返される「循環」を終わらせようとしていた。ジェダイの弱点を認めつつも、その思想は懐かしんでいる。スローンに捨て駒にされていることに薄々勘づきながらも、ベイランはこの地に眠る特別な力を発見することを優先していた。

エイリアンの村で、サビーヌはエズラと再会した。十年ぶりの再会だが、軽口をたたき合える仲なのは変わらない。エズラは、まだサビーヌを心の底から信頼していた。「家に帰るのが待ち遠しい」と微笑みかけるエズラ。だが、敵の手を借りてここまで来て、帰る手段を持たないサビーヌの顔は険しい。

グレート・マザーたちはアソーカがペリディアに近づいていることを察知した。抜け目のないスローン大提督は情報の収集と徹底的な迎撃を命令する・・・

現実となったおとぎ話:SWをメタから捉え直す


今回の冒頭、ヒュイヤンはスター・ウォーズ銀河内のおとぎ話を語る。その始まりは「遠い昔、はるかかなたの銀河系で・・・」。スター・ウォーズ映画の冒頭を回収する台詞となった。この台詞は、ただのファンサービスではなく、「おとぎ話が現実へと続いている可能性」、すなわち「スター・ウォーズという映画をも地球の現実と繋がっている可能性」を示した。作中だけでなく、作品論にも大きな影響を与えるシーンだ。

惑星ペリディアは、「おとぎ話」の存在だった。しかし、それは実在した。ダソミリは確かにパーギルを飼いならし、遠い昔、はるかかなたの銀河系からSW銀河へ移住したのだ。作中では、ベイランやスローンの口からペリディアが「夢」であることが語られ、その夢が「現実」であるSW銀河に影響を与えようとしていると強調される(※ペリディアは同時に冥界でもあろう)。この辺りからも、スター・ウォーズという「フィクション」と「地球の現実」の関係を再定義しようとしているようだ。

ベイランも、ある種メタ的な視点を持っている。スター・ウォーズという戦記では、権力を巡る戦争が終わることはない。そんなメタ事情に対して、ベイランは「夢」の力を持って循環を終わらせようとする。彼はグレート・マザーやスローンがペリディアの「何か」から逃げ出そうとしていると予想し、その力を追い求める。それは、永遠に銀河を支配できる時空を超越した力だろうか。それとも、戦記をも書き換えるメタ的な創作者の力だろうか・・・。

と言ってはみたものの、私はベイランの求める力なんて無いと予想している。再三シン・ハティからも指摘されていたが、ベイランの求める力はおとぎ話で語られていたものに過ぎない。そこに真実が含まれているとしても、おとぎ話がフィクションである以上、全てが真実とは限らない。『最後のジェダイ』にておとぎ話を真実だと信じる愚かさを徹底的に否定したスター・ウォーズの文脈において、メタ的な視点をもたらそうとしている本作が一筋縄でいくとはどうも思えない。

スローン大提督の帰還とその作戦


アニメ『反乱者たち』の最終話で、エズラと強い絆を持つパーギルに連れ去られたスローン大提督。今回、とうとう再登場を果たした!旧設定群(レジェンズ)の小説『帝国の後継者』で、ルーク、レイア、ハンらの英雄率いる新共和国を追い詰めた戦略家であるスローンは、正史においても大きな脅威となるだろう。

スローンは旗艦<キメラ>をも破壊されていたが、10年を経て軍を再建させていた。惑星ペリディアの魔女グレート・マザーらに対して、SW銀河に連れ帰る約束をし、彼女たちの力を借りたようだ。おそらく配下のナイト・トルーパーたちは、魔女の魔法によって動かされている死体だろう。つまり、マロックにかけられていたのと同じ技だ。イノックがサビーヌに「良き死を(Die well.)」と声をかけたのも、その伏線に見える。不死身の兵士は手強い敵となるだろう。

正直、今回だけではスローン大提督の魅力はあまり伝わっていない。ビジュアルは「青イーロン・マスク」と揶揄され、恰幅が良すぎるのも気になる(一部破けていたものの、比較的小綺麗だったので、これも何かの演出か?)。サビーヌとの約束を守らせるのは彼なりの美学ではあるのだろうが、彼女を絶望させたいサディストのように写ってしまう。強いて言えば、モーガンの部隊増員の提案を却下し、アソーカに油断するなと忠告したあたりからは多少の有能さが垣間見えただろうか。彼は戦略家であるため、短期間で魅力を引き出すのは難しいが、今シーズン中に一回ぐらいはアッと驚かせる奇策を披露してもらいたい。

今シーズンの終わりには、戦艦<キメラ>がハイパースペース・リングである<シオンの目>と合体して、SW銀河への帰郷を果たすであろう。スローン大提督が帰還すれば、第一話冒頭の文でも明言されたように、帝国軍残党の士気が盛り上がり、銀河で戦争の機運が高まる。この「帰還が銀河を脅かす」という構図は『スカイウォーカーの夜明け』のパルパティーンにも似ているが、皇帝の帰還は「彼自身が脅威」であったのに対し、大提督の旗艦は「彼が政治的なアイコンとなり、残党が盛り上がることが脅威」である。この違いを意識した上で、戦略家のスローンがアイコンである自分のイメージをどう利用するのかにも注目したい。(政治的なアイコンの帰還を恐れるという構図は、大統領選を控えた米国リベラルの懸念が表れているようにも思えるが・・・?)。

家族を救うサビーヌと犠牲を受け入れるジェダイ


そして、もう一人の英雄エズラ・ブリッジャーも再登場を果たした。サビーヌ・レンが敵方と手を組んでまで救おうとした想いがようやく報われようとしている・・・。が、エズラはこの複雑な事情をまだ知らない。

師であるアソーカは、サビーヌの決断を「彼女自身のための決断」だと捉え、未だに間違っていると考えている。ジェダイに必要な「無私の精神」「自己犠牲の精神」が足りていない、と。だが、たびたび指摘してきたように、それはジェダイの論理である。その論理にケイナンやエズラ、そしてマンダロリアンの家族を奪われてきた彼女が従う義理はない。

本作は、やはり『EP3/シスの復讐』のアナキンの繰り返しである。家族を「死」から救うために、ジェダイの掟を捨て、敵に与する。だが、本作の「主人公」であるサビーヌは決定的な闇堕ちはしないし、ジェダイの代表者であるヒュイヤンからも理解を示されるし、SW銀河にとって「死者」同然だったエズラをも救えそうだ。アナキンとは違い、成功を掴みつつある。家族を想う心には「執着」という悪感情だけでなく、「思いやり」も含まれているはずだ。家族も世界も救えるというハリウッド的な綺麗ごとではなく、犠牲を払っても、家族を救おうと思う気持ちも尊いと描き、『EP3/シスの復讐』への見方を変えたいのではないだろうか

ただ気がかりなのは、この事情をエズラがまだ知らないことである。ジェダイであるエズラは、師のケイナンと同じように「自己犠牲」でスローンを道連れに、姿を消した。そのエズラは、サビーヌが自らの犠牲を無に帰したことを知って、どう思うのか。彼女を信頼し、家に帰れると純粋に喜んでいる彼を見ると、心が苦しい。いまだに軽口を叩き合う関係の二人だが、10年前とは事情が異なっている。だが、あまりにも自分を顧みないエズラがすり減っていくのを救えるのは、彼を思いやれる相棒のサビーヌだけなのかもしれない・・・

ジェダイの論理を否定するサビーヌと、ジェダイの論理に従ったエズラ、そしてジェダイの遺産を受け継ぐアソーカ。三者三葉の関係性が、どうなるかには注目だ。「サビーヌには訓練が足りない」と考えているらしいアソーカとサビーヌの和解には、一抹の不安が残る。ヒュイヤンが指摘したように、エズラを救う道はあれしかなったのだが、「サビーヌは未熟だからあの道を選んだ」と今のところアソーカはその決断を認めていない

アナキンの教えは「ジェダイの遺産を受け継いだ弟子は、それ以上になる」というもので、弟子の決断を尊重するものだったはずだが、アソーカは「弟子が遺産を受け継いだ」という前提条件を認めていない。アソーカがサビーヌを一人前だと認めない限り、対等な話し合いは出来ない。もし、サビーヌがフォースを操れるようになれば、彼女を認めるのだろうか?今回、サビーヌは獣や言葉が通じない人々と心を通わせていたが、これはエズラがパーギルらに使った能力にも似ている。もしかして既にサビーヌはフォースの力の一部を身に着けているのかも・・・?いずれにせよ、次回に期待だ。

余談だが、今回のベイランのシンに対する台詞「ジェダイの遺産以上のものを教えた(から、お前はジェダイ以上だ)」は、アナキンの前回の教え「ジェダイの遺産を受け継いだ弟子は、それ以上になる」と対比されているものだろう。ジェダイの師は弟子が自分を超えることを見越しているが、ベイランは弟子の潜在能力を信じていない

豆知識

「遠い昔、はるかかなたの銀河系で」

ヒュイヤンは、旧共和国時代のおとぎ話を「遠い昔、はるかかなたの銀河系で」という文言から語り始める。これはもちろんスター・ウォーズ映画の最初に流れる文言と同じものだ。

魔女とマザー


ペリディアの魔女も、ダソミアの魔女ももとは同じ種族のナイトシスターである。どちらも女権社会であるため、指導者には「マザー」の称号が使われている。
また、三人のグレート・マザーの名前はそれぞれアクトゥロポー、クロソー、ラケシスであり、ギリシャ神話の「運命の三女神」モライから名前がとられている。

<キメラ>


スローン大提督の旗艦である<キメラ>が初の実写化。旧設定群(レジェンズ)の小説『帝国の後継者』から登場していた本艦は、裏にキメラのシンボルが書かれていることが大きな特徴である。今回の登場では、あちこち修繕されたことが確認できる。

金継ぎ


スローン大提督配下のナイト・トルーパーはボロボロになったストームトルーパーアーマーを修繕して使用している。その継ぎ目には、金が使われており、日本の伝統文化である金継ぎを彷彿とさせる。
また、そのリーダー格であるEnochは、旧約聖書からの名前。

オオカミ


本作の製作総指揮を務めるフィローニのお気に入りの動物は、オオカミである。今回サビーヌ、ベイラン、シンが乗ったオオカミらしき獣はハウラーと呼ばれている。同名の獣は、レジェンズ(旧設定群)のゲーム『Jedi Knight: Jedi Academy』に初登場していた。同じく指揮を執ったアニメ『反乱者たち』でも、『もののけ姫』から影響を受けたようなオオカミ、ロズ・ウルフに主人公たちは乗っていた。
ちなみに、ベイランとシンという名前は、どちらも北欧神話の狼の名前からとられている。

スターバード


エイリアンのノティは、サビーヌの肩にあるシンボルに反応を示す。このシンボルは、反乱同盟軍スターバードと呼ばれるもの。サビーヌがサインとして使用していたスターバードに手を加え、反乱同盟軍のシンボルにしたものだ。

木剣ジェダイ

ベイランは、オーダー崩壊後に訓練を受けたジェダイを「木剣ジェダイ(Bokken Jedi)」と呼称していた。環境が整っていないために、ライトセーバーではなく木剣で訓練したことが語源だと思われる。

エズラのメッセージ

エズラからサビーヌに向けた「君を頼りにしている」「家に帰るのが楽しみだ」という台詞は、いずれも『反乱者たち』最終話で残された、エズラからのホログラム・メッセージにあるものと似通っている。


        パート6「はるかかなたで」
        パート7(9月27日配信)
        パート8(10月4日配信)


筆者:ジェイK(@StarWarsRenmei

画像は、『アソーカ』(2023年、ルーカスフィルム)より。ユーザー評価は、記事執筆時点。出典 出典

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