- パート2「苦労と苦悩(Toil and Trouble)」
- 監督:ステフ・グリーン
- 脚本:デイヴ・フィローニ
- 評価: ★8.5/10(IMDbユーザー評価)
あらすじ
帝国の戦術家スローン大提督とジェダイの英雄エズラ・ブリッジャーの居場所を示す地図を巡り、モーガン・エルズベス一行とアソーカ・タノ一行は対立していた。タノの元弟子のサビーヌ・レンは地図の解除に成功するが、直後にシン・ハティに襲われ、地図を奪われる。腹を刺され重傷を負うものの、サビーヌはなんとか一命をとりとめた。アソーカは潜んでいた刺客のドロイドの頭を切り落として持ち帰ると、サビーヌに解析を依頼する。心配性のヒュイヤン教授の横やりが入りつつも、サビーヌは、ドロイドが造船所の集まる惑星コレリアから来たことを突き止める。
一方、モーガンの雇った元ジェダイのベイラン・スコールは弟子のシンと共に地図の道の始点を発見した。モーガンは、地図の示す別の銀河から古代に入植が行われ、そこがスローン大提督の現在地であることを告げる。計画遂行のために、惑星コレリアには尋問官のマロックとシンが派遣された。
惑星コレリアで、ヘラ・シンドゥーラ将軍とアソーカは調査を行う。モーガンの造船所は全て新共和国の配下に収められたはずだった。だが、スーパースターデストロイヤーのハイパードライブが、新共和国の計画以外で利用されていることを知る。ドライブを運び出そうとする船をヘラとアソーカは追いかける。アソーカはマロックと対峙するが、あと一歩のところでシンの助けが入り、取り逃してしまう。一方、<ファントムII>に乗り込んだヘラはチョッパー(C1-10P)の活躍で、船に追跡装置を取り付けることに成功する。
惑星ロザルにて、サビーヌはヒュイヤン教授と言葉を交わす。ドロイドであり、多くのジェダイを見てきたヒュイヤンは彼女がフォースを操る能力を持っていないことを告げる。だが、同時に逃げているのは彼女であるという事実も指摘する。アソーカはサビーヌを再び頼ってくれた。次は彼女が歩み寄る番だ。家へ帰ると、マンダロリアンのアーマーを取り出し、ヘルメットの前で断髪する。自分らしく、再びアソーカと共に歩むことを決める。アソーカは、再び彼女のパダワンとなる。
モーガンたちの計画は順調に進んでいた。ハイパードライブも揃い、いよいよ別銀河への旅が始まろうとしていた。しかし、アソーカの追跡は執拗なものとなるだろう・・・
地図の示す先:別の銀河
本作は、スローン大提督の居場所を示す「地図」を巡り、アソーカ一行とモーガン一行が対立している。この構図は、ルークの居場所を探す『フォースの覚醒』やパルパティーン皇帝の居場所を探す『スカイウォーカーの夜明け』に似通っており、フィローニ監督が意図した構図だろう。その上で「自分ならこうする」という彼なりの回答を示している。
地図の示す先は、「別の銀河」であった。これは、多くのファンに大きな衝撃を与えただろう。一方で、スター・ウォーズでは、すでに「別の銀河」が描かれていた。旧設定群レジェンズの小説「ニュー・ジェダイ・オーダー」シリーズでは、別銀河からの侵略者ユージャン・ヴォングが登場した。ただし、ユージャン・ヴォングは何千万年もの時間をかけて移民してきたため、故郷の「ヴォング銀河」に帰還することは不可能となっていた。
この二話で登場した「別の銀河」は、今までの別銀河とは異なり、行き来が可能なようだ。しかも、古代にはその「別の銀河」から「SW銀河」への移住も行われていた。明言こそされていないものの、モーガンの部族である「ダソミアのナイトシスター」もこの「別の銀河」に由来すると思われる。フィローニの監督作『クローン・ウォーズ』の舞台裏映像にて、ルーカスは「ナイトシスターの魔法は、フォースの力とは別物」という見解を示していた。
“魔女”とフォース
ただ別の銀河に由来する魔法が既存のフォースの力とは別物とはいっても、フォースは宇宙に普遍的に存在すると思われる。実際に、魔女のアサージ・ヴェントレスや魔女の息子であるダース・モールは暗黒面のフォースの使い手であるシスの一員になっていた。生みの親であるルーカスもフォースを普遍的な力、神の力の言い換えだと考えていた。その神域には「ニュー・ジェダイ・オーダー」シリーズも近づけず、ユージャン・ヴォングの力もフォースの一部として処理された。
モーガンは「宿命」という言葉を多用する。スター・ウォーズにおいて、運命をもたらすのは、フォースである。また、パーギルとハイパードライブによってたどり着けるということは、二つの銀河はハイパースペースによってつながっている。『反乱者たち』のロズ・ウルフで描かれたように、ハイパースペース航行はフォースと密接な関わりを持つ。以上のことから、フォースが「魔法」の中や、「別の銀河」にも存在するのは間違いないだろう。
話を戻すと、この地図は、本来何を指しているものなのかも注目すべきポイントだ。パーギルの生息地と彼らが辿る道を示したものに過ぎないのか。それとも、モーガンが時空を超えてスローン大提督の居場所を感じたように、時空を超えて道を示す地図なのか。フォースの力が時空を超えることは、『反乱者たち』の「はざまの世界」でも明示されている。ベイランは、時空を超えるフォースの「真の力」を欲しているのかもしれない。
そして、スローン大提督も、ダソミアも、ユージャン・ヴォングも、コレリアという惑星の詳細も、「外宇宙」への航行計画も、どれも元々は旧設定群レジェンズの要素だった。本作は、シークエル三部作への回答でもあり、同時に旧作のレジェンズへの回答でもある。
デイヴ・フィローニ監督は、全てのスター・ウォーズ作品を参照しつつ、「別の銀河」という劇薬を持って、「SW銀河」にとっての「遠い昔はるか彼方の銀河系を舞台にしたおとぎ話」を登場させた。スター・ウォーズをメタ的な視点・新たな視点から見つめ直そうとしている。そして、世界の根幹にかかわるフォースのさらなる可能性を描くだろう。
悪が再興する理由
今回提示された「帝国が再興する理由」は、説得力のあるものであった。それは、人々が「強欲」だからだ。工場長はヘラの問いかけにこう答える。「政治体制なんて、下のものは気にしない。実業家の私は、投資家に忠実だ」。資本主義に生きる人々は目先の利益を優先し、どんどん強欲になっていく。結果、訪れるのは、正義を軽視した社会なのだ。
強欲が悪に繋がることはプリクエル三部作でも描かれてきた。アナキンは、妻のパドメを死なせたくない、自然の流れを捻じ曲げたいという「強欲」によって暗黒面へと落ちていく。また、本作の悪役であるベイランも夢にも思わないほどの力を求める「強欲」によってジェダイの道を外れていく。
強欲が暗黒面や悪へ繋がるという今回の描写は、過去の描写も踏まえた上で、資本主義の限界が叫ばれている現代を風刺したものであった。
サビーヌの改心
第一話では、アソーカとサビーヌがかつて決別したことが描かれた。頑固な二人は互いに歩み寄ろうとしてこなかったが、エズラの地図をきっかけにアソーカはサビーヌの元を再び訪れる。
自分をコレリアに連れて行かないアソーカを見て、サビーヌは自分が必要とされていないと感じてしまう。だが、それは勘違いだ。アソーカは、地図の解読のためにサビーヌを頼り、その後もドロイドの脳内の解読のために再び彼女を頼った。アソーカは、サビーヌを必要としているのだ。ヘラは、頑固な二人のすれ違いを見て、アソーカの気持ちを代弁する。「今は怪我を治すために休んでいて」。そう、アソーカは本心ではそう思っていたのだ。ありがとう、ヘラ!
ヘラはコレリアについた後も苦心する。アソーカは、サビーヌが地図を持ち出したことに対してまだ不満げだ。ヘラはフォローする。「でも、ここに導いてくれたでしょ?」。話をしていくうちに、アソーカは、サビーヌが未熟さを自覚していないことを問題視していることが明らかになる。しかも、それを指摘せず「自分で悟るべき」と語る。なんと頑固で不器用な師匠だろうか。だがこれは、足るを知らずに強欲に走ったアナキンを見たからこその意見なのかもしれない。
サビーヌはヒュイヤン教授と話す。ヒュイヤンからライトセーバーを改造されたことを指摘され、サビーヌは自分がジェダイになろうと考えていたことを思い出す。しかし、口から出るのは、言い訳ばかり。「アソーカは私の所に戻ろうとしなかった。私には能力がないから、アソーカの時間を浪費するだけ」。ヒュイヤンは冷静に事実を語る。「君も戻りたいと意思表示しなかった。そして、浪費しているのは自分の時間だ」。サビーヌは他責思考に陥り、いつしか自分を成長させられなくなっていた。だから、自分の力を見誤り、シンに負けた。エズラと共に居た時は成長出来ていたのに、今は停滞するばかり。それは、自分を信じてライトセーバーを託してくれたエズラへの裏切りであり、このままでは彼を救えない。サビーヌは再びライトセーバーを手に取る。
同じ弟子に敗れて一度死にかけたサビーヌは、未熟さを自覚し決意を新たにする。埃をかぶっていたマンダロリアンのアーマーを引っ張り出し、エズラを救い出す覚悟を決め、かつてのケイナンと同じように断髪する。これで、新しい自分だ。再びジェダイの道を歩み始め、アソーカへと連絡をとる。自分の間違いと愚かさに気付けたサビーヌをアソーカはパダワンとして迎え入れる。こうして、二人はまた師弟となった。
フォース感応者ではない(はずの)サビーヌが、ジェダイになるというテーマは、『フォースの覚醒』のフィンでも示された「誰でもジェダイになれるという」可能性を再提示している。また、悪役のベイランは、ただジェダイを恨んでいるわけではなく、彼らが滅びゆくのを残念がっており、思うところがありそうだ。本作は、「ジェダイとはなんなのか」が問われる作品となるだろう。
最後に、ヘラの功績の大きさを改めて強調しておこう。彼女がいなければ、頑固者のアソーカとサビーヌはすれ違い続け、決別したままに終わるところだった。また、子供の様に、探し物が見つからないのを人のせいにするチョッパーをあれほど上手く扱えるのも、ヘラだけだ。母性とリーダーシップを兼ね備えた素晴らしい人物である。・・・もうヘラが主人公でもいいんじゃなかろうか。
豆知識
タイトルの引用元
今回のタイトル「Toil and Trouble」は、シェイクスピアの『マクベス』の魔女の呪文「Double, double toil and trouble;. Fire burn and caldron bubble.」からの引用だ。モーガンが魔女であることを踏まえたタイトルだろう。
2-1Bドロイド
サビーヌを治療していたのは、スター・ウォーズではおなじみとなった医療ドロイド2-1Bシリーズの一体だ。この型は、『EP5/帝国の逆襲』にて初登場した。
惑星コレリア
モーガンを追ってアソーカとヘラは、惑星コレリアに向かう。コレリアは、映画『ハン・ソロ』にも登場した、造船所の集まる惑星だ。ハン・ソロをはじめ、ウェッジ・アンティリーズやデンガーらの故郷である。
<ファントムII>
『反乱者たち』より、<ファントムII>が実写化した。この機体は<ゴースト>の補助船であり、もともとは分離主義勢力が所有していた輸送シャトルだった。シーズン3より、反乱者たちのものとなった。
SSD
巨大なハイパードライブ・エンジンは、もともとSSDのものだったと説明される。SSDとは、スーパースターデストロイヤーの略称。『EP5/帝国の逆襲』に登場したヴェイダーの旗艦<エグゼキューター>は、そのうちの一隻。
HK級アサシン・ドロイド
モーガンの一派が使うHK級アサシン・ドロイドは、旧設定群(レジェンズ)の名作ゲーム『Star Wars: Knights of the Old Republic』からの登場。同作は『EP4/新たなる希望』の約4000年前を舞台にしていた。
サビーヌの断髪
サビーヌは、エズラを探す旅に出る前に、髪を切り落とす。これは、『反乱者たち』でヘラを救う作戦の前に断髪したケイナンのオマージュだ。両者ともにナイフを使っており、同じナイフかもしれない。
シオンの目
モーガンは銀河間を移動するための巨大な船を「シオンの目」と呼称していた。発音と綴りは、旧設定群(レジェンズ)のダース・シオン(ダース・サイオン)を彷彿とさせる。HK級も登場するゲームの登場人物だった。彼は右目を失っていたが、そこに関連したネーミングなのだろうか?
『反乱者たち』エピローグの実写化
サビーヌがエズラを救うためにアソーカと旅に出る場面は、『反乱者たち』エピローグの実写化である・・・と思われる。『反乱者たち』の該当場面は『ジェダイの帰還』の約1年後という設定であり、本来なら約4年後を舞台としている本作と時代設定がかみ合わないのだが、細かいことを気にしないフィローニ監督は設定を上書きした可能性がある。
クレジット映像での経由地
By u/ajneb97 |
エンドクレジット映像の文字は未知のものだったが、有志によって解読された。経由地の惑星の名前は、既に登場したアルカナ、ロザル、コレリア、シートスや、まだ本作には登場していないコルサント、ヤヴィン、マンダロア、ダソミアなどの名前が書かれている。未登場で、かつここに名前が挙がった惑星は今後登場しそうだ。