- 第五話「海賊(The Pirate)」
- 監督:ピーター・ラムジー
- 脚本:ジョン・ファヴロー
- 評価: ★8.6/10(IMDbユーザー評価)
あらすじ
改心した上級監督官グリーフ・カルガの下で繁栄していた惑星ネヴァロ。しかし、海賊王ゴリアン・シャードは、かつての仲間が自分の影響下から離脱することを許さず、街を襲撃する。保安官が居ないネヴァロは、戦艦の砲火で蹂躙される。カルガは、新共和国のパイロットでキャプテンのカーソン・テヴァに助けを求める。
テヴァは、海賊から街を解放するために、新共和国の上官タトル大佐に許可と増援を求める。しかし、イライア・ケインの横やりも入り、新共和国に加盟していないネヴァロへの救援は困難な状況だった。テヴァは、かつての同僚であるR5-D4から情報を入手し、チルドレン・オブ・ザ・ウォッチの隠れ家へと出向く。そして、ディン・ジャリンに旧友のカルガの危機を告げるのだった。
賞金稼ぎギルドの頭目だったカルガは、かつてグローグーを巡り、ディンが属するチルドレン・オブ・ザ・ウォッチと殺し合った。ディンは、「ネヴァロを解放すれば新たな住処が得られる」と仲間のマンダロリアンを説得しようとするが、説得は難航する。しかし、パズ・ヴィズラが議論に加わると、事態は好転。前回、ディンとボ=カターン・クライズが、彼の息子を命がけで助けたことで、二人は信頼を獲得していた。「我らの道」に従い、一行はネヴァロの解放へと出向く。
街は徹底的に略奪され、戦力差は圧倒的だった。だが、ディンがN-1スターファイターで戦艦や戦闘機を惹きつけている間に、マンダロリアンの部隊が地表へと降下。パズやアーマラーも前線で戦い、マンダロリアンとネヴァロの人々は勝利を手にする。
グリーフ・カルガは、感謝の印として、ネヴァロの一部をマンダロリアンの新たな故郷として提供することに同意した。一方、アーマラーは、今回の勝利の立役者でもあるボ=カターンを鍛冶場へと呼びだす。そして、ミソソーの存在は、マンダロリアンの統合に繋がる新たな時代をもたらし、ボ=カターンこそが二つの「道」の橋渡しになると告げた。ボ=カターンは「我らの道」に囚われない新たな道を目指し、ヘルメットを脱いで旅立つのだった。
一方、巡回中のカーソン・テヴァは、モフ・ギデオンが輸送中に何者かに連れ去られた証拠を見つける。そして、現場に残されていたのは、マンダロリアンの象徴でもあるベスカー合金だった・・・
間違える新共和国と、誕生する小規模な連携
シークエル三部作を見ればわかるが、銀河帝国を打倒した後の新共和国政府は、間違いを犯し、敗北する。第三話では、自らの正義を愚直に信じ、帝国と同じようなに暴走する愚かさが描かれていた。そして今回は、官僚制に支配され、加盟していない地方を救おうとせず、迫りくる新たな脅威にも対処できない様が描かれた。
もちろんイライア・ケインなどの内部に蔓延るスパイも問題だが、「新共和国は正しい」という考えこそが、根底にある。実際、カーソン・テヴァは、イライアの発言の「帝国的な考え」を批判するが、上司のタトル大佐はそれを差別的だと見る「政治的正しさ」をもって、テヴァの意見を一蹴する。「新共和国が正しい」限り、敗北することはないという楽観主義に陥っている。
一方、「正しさ」ではなく、「安全」のために戦うネヴァロの民とマンダロリアンは、海賊王に打ち克った。新共和国が頼りないぶん、地方政府が勃興し、新共和国はますます力を失っていく。だが、中央政府ではなく、小規模に連携して戦っていく姿こそ、『マンダロリアン』に連なる「マンダロリアン・バース」の主軸だろう。
『ボバ・フェット』で、大名となったボバは惑星タトゥイーンに独立した政府を作る。今回、惑星ネヴァロでは、地元の民とマンダロリアンが連携して新たな政府となる。そして、次作の『アソーカ』では、「もはやジェダイではない」どこにも属していないアソーカ・タノが、脅威に対処する。また、今回カメオ出演したゼブも、中央政府(反乱同盟軍)の力を借りずに故郷を得た種族の一人だ。今までは、おとぎ話として大きな戦いが描かれてきたが、スピンオフである「マンダロリアン・バース」では、小さな地元での戦い、より卑近な戦いの意味が描かれていく。
分裂を乗り越えた「新たな道」
マンダロリアンの歴史は、内戦の連続だった。『クローン・ウォーズ』では、平和主義の新マンダロリアンとデス・ウォッチ、ボ=カターン派とモール派の争いが描かれた。『反乱者たち』では、旧来のマンダロリアンと帝国に従うスーパー・コマンドーの争いが描かれた。現在もボ=カターン・クライズら「デス・ウォッチ」と、アーマラー率いる「チルドレン・オブ・ザ・ウォッチ」は、違う「道」を歩んでいる。しかし、前回第四話で、パズ・ヴィズラの子どもを救ったことをきっかけに両者には絆が生まれた。そして、今回も共闘することで、彼らは「新たな故郷」を手に入れた。
アーマラーは、二つの道が統合し、すべてのマンダロリアンが結集するべき時が来たと告げる。争いによって獲得するダークセーバーではなく、伝説の獣ミソソーを象徴とすれば、部族全体が統合される新たな時代をもたらせる。ボ=カターンはその橋渡しとなるべく、各地に散ったマンダロリアンを結集させようと覚悟を決める。
だが、マンダロアを蹂躙し、ダークセーバーを奪い去ったモフ・ギデオンが、その道の障害となるだろう。帝国の軍人だった彼は、マンダロリアンの指導者の象徴だったダークセーバーを一度は獲得した。しかも、帝国はマンダロリアンの一派であるスーパー・コマンドーを支配していた。新共和国から逃亡したギデオンは、ベスカー合金を置き土産に残している。彼を救出したのがマンダロリアンの一派なのか、それともマンダロリアンを嵌めようとしているのか。いずれにせよギデオンが大きな脅威になるのは間違いない。
本作は、いよいよマンダロリアンの統合に向けて進み始めた。その道のりの中で、マンダロリアンは、モールや銀河帝国といった「外部の人間」がもたらした分断に向きあわなくてはならない。モールと銀河帝国には、ガー・サクソンをはじめとしたマンダロリアン・スーパー・コマンドーが付き従っていた。今後、そのスーパー・コマンドーがモフ・ギデオンと共に登場し、統合への新たな道を模索するボ=カターンやアーマラーに立ちはだかるだろう。だが、ミソソーがマンダロリアンにとって新たな統合の象徴となれるのであれば、スーパー・コマンドーとの和解も不可能ではないかもしれない。
「ユダヤ人」とマンダロリアン
本作を語るうえで、マンダロリアンはユダヤ民族がモデルであろうことは改めて指摘しておきたい。聖なる水に浸かるという儀式。教義に則った部族である点。故郷を失い、離散する点。強大な政府によって弾圧される点。右派や左派を超えて結集しようとする点。いずれも、第二次世界大戦以降にイスラエルへの「帰還」を果たしたユダヤ民族と重なる。加えて、本作の殆ど全ての脚本を担当している総指揮のジョン・ファヴローは、親がユダヤ人であるということもあり、ユダヤ文化の中で育った。
もっとも、本作がイスラエル建国を肯定している政治的な作品であるとは言わない。それどころか、ネヴァロへ移住する描写は、「故郷」での建国に拘り続けたイスラエルとは大きく異なる。ジョン・ファヴローがユダヤ文化の中で育ったとしても、彼はイスラエル国民ではない。ある程度の距離を保ちつつも、現実の民族や問題を上手く作品へと落とし込んでいる。
「新たな故郷はどこでも作れる」、「現地の人々に歓迎された上で共存する」といったマンダロリアンの在り方は、入植先の「故郷」のパレスチナ人との軋轢を抱え続けるイスラエルへの批判にすら受け取れる。本作を見るうえで、マンダロリアンはユダヤ人だと頭の片隅に置いておくと、より楽しめるかもしれない。
豆知識
ゼブ
アニメ『反乱者たち』より、ゼブ(ガラゼブ・オレリオス)が実写化した!声とモーションキャプチャーを担当したのは、アニメでもゼブの声優を担当したスティーヴン・ブルーム。次作のドラマ『アソーカ』にも彼は出演しそうだ。
監督たちのカメオ出演
ゼブとテヴァが話している横では、三人の新共和国のパイロットが談笑している。実は、この三人を演じたのは、『マンダロリアン』の監督たちだ。総指揮でもあるデイヴ・フィローニがトラッパー・ウルフを、今シーズンからの総指揮であるリック・ファミュイワがジブ・ドジャーを、『オビ=ワン』も監督したデボラ・チョウがサシュ・ケッターを演じている。いずれもシーズン1の第六話「囚人」で初登場した。
リード中尉
声だけの出演だったが、マックス・ロイド=ジョーンズ演じる新共和国のパイロット、リード中尉も再登場!俳優の名前だけだとピンとこないかもしれないが、彼は『マンダロリアン』でルーク・スカイウォーカーのスタント・ダブルを務めていた。
「He Shot First」
劇中、ゴリアン・シャードとグリーフ・カルガは、どちら側が先に発砲したのかを巡って口論する。これは、明らかに『EP4/新たなる希望』特別編のオマージュ。特別編では、ハン・ソロがグリードの後に撃ったという変更が加えられ、「Han Shot First」を合言葉にファンによる大規模な抗議が展開された。
コルセア
ゴリアン・シャードの海賊船は、コルセアという型の船だと説明されている。このコルセアは、スローン大提督を描いた小説『Thrawn Ascendancy: Chaos Rising』で初登場した。スローン大提督とゴリアン・シャードの繋がりを暗示する描写か?
ブロック渓谷
マンダロリアンの活躍に感謝し、グリーフ・カルガは、ブロック渓谷までの土地を彼らに与えた。このブロックという名前は、『EP5/帝国の逆襲』と『EP6/ジェダイの帰還』でボバ・フェットを演じた俳優ジェレミー・ブロックへのリスペクトが込められた名前であろう。