- 第三話「改心(The Convert)」
- 監督:リー・アイザック・チョン
- 脚本:ジョン・ファヴロー、ノア・クロア
- 評価: ★7.4/10(IMDbユーザー評価)
あらすじ
泉に浸かってヘルメットを脱いだ罪を贖った主人公ディン・ジャリン。その彼を引きあげる際にボ=カターン・クライズは、伝説の獣ミソソーを目撃した。しかし、ディンはそのことに気付いていない。ボ=カターンはミソソーのことを胸にしまい、グローグー、ディンと共に帰還しようと飛び立つ。しかし、そこに襲い掛かってきたのが、帝国残党のTIEインターセプター。ディンがN-1スターファイターで参戦したことで、一行は第一波を撃退するが、その後に現れた増援によって、衛星カレヴァラのボ=カターンの城は破壊されしまう。彼女は怒りに駆られそうになるが、ディンがたしなめて一行は脱出する。帝国残党がなぜあれほどの戦力を持っているのかには疑問が残る。
一方、惑星コルサントでは、ドクター・ペン・パーシング(L52)が、新共和国への感謝のスピーチを行っていた。元々は命を救いたいという一心で始めたクローン技術の研究は、帝国によって利用された。パーシング博士も帝国の下で働いたが、それは強制されたことでだった。彼は、新たな共和国の下で働けることを誇りに思っている。彼のように、再教育を受けて、新共和国所属に転向した軍人は大勢いる。彼と同じ施設に住むことになったイライア・ケイン(G-68)も、その一人だ。
はじめパーシングは、モフ・ギデオンの元部下だったケインを警戒する。だが、思い出のトラベル・ビスケットを届けてくれたり、観光に連れて行ったりと、彼のことを気遣ってくれる彼女に徐々に心を開いていく。そして、そのアドバイスへと耳を貸すようになる。
パーシングは、新共和国のためにクローン技術の研究を続けたいと考えていた。しかし、新共和国は彼に注意を向けず、クローン技術の研究も法で禁止した。パーシングに回ってくるのはくだらない業務ばかり。しかも、事なかれ主義の新共和国は、帝国の技術を全て破棄しようとしていた。不満をため始めるパーシング。
ケインは、そんな彼を上手く導いていく。「新共和国では、自分の考えで行動すべき」。「ラボは用意できる」。「新共和国は有用性に気付いていない」。「その重要な研究のためなら私も手を貸す」。とうとうパーシングは説得され、二人はスクラップ置き場へと向かう。ケインの機転と能力で、二人はラボのある巡洋艦へと侵入し、機材を運び出す。
しかし、ケインはパーシングの味方ではなかった。彼女は今回の侵入計画を新共和国の当局へ通報していたのだ。パーシングの弁明は聞き入れられず、「調整」が困難だと判断された彼は「緩和装置」へと入れられた。ケインは、彼の機械のレベルを上げていき、帝国のトラベル・ビスケットをほおばりながら、彼が苦しむ様を眺めていた・・・
話は戻る。ディン、グローグー、ボ=カターンは、帝国から逃れるために、「チルドレン・オブ・ザ・ウォッチ」の隠れ家へとやってきた。教義から外れたと考えられていた二人は、はじめは冷たい対応を受ける。しかし、アーマラーが彼らが罪を贖ったことを宣言すると、ディンは再び仲間として認められた。そして、ディンを救うために泉に浸かったボ=カターンまで、仲間だとみなされた。
スノークに繋がるストランド=キャスト
今回は、異色の回だったが、かなり面白かった!どういう評判になるかは不安だが、スター・ウォーズのオタクが楽しめる内容だった。まずは今回明らかになったストランド=キャストの情報についておさらいしておこう。
『バッド・バッチ』シーズン2のレビューでも述べたが、ストランド=キャストとは、遺伝子操作を受けた「クローン」を指すスター・ウォーズ世界の用語である。『スカイウォーカーの夜明け』関連の設定では、スノークやレイの父親が、このストランド=キャストだと明かされていた。近年のスター・ウォーズにおいて、ストランド=キャストは中心テーマとなっている。本作『マンダロリアン』だけではなく、『バッド・バッチ』でも特殊な「クローン」が描かれている。
そして、今回も単語こそ登場しなかったものの、ストランド=キャストの研究をパーシング博士が行っていたことが明示された。パーシングは、カミーノアンのクローン技術を発展させ、様々な遺伝子を組み合わせた理想的な複製を作ろうとしていた。その素体として利用すべく、モフ・ギデオンの命令で、フォース感応者であるグローグーを狙っていたのだ。
最終的に、スノークをパルパティーンが操ることを考えると、このストランド=キャストの計画は、『スカイウォーカーの夜明け』のパルパティーンへと繋がっていく。モフ・ギデオンがパルパティーンの直接の配下なのか、それともスローン大提督がこの一件の黒幕なのかはまだわからない。しかし、この『マンダロリアン』が、シークエル三部作を補完する物語だということが改めて示された。
帝国と変わらない新共和国
銀河帝国を打倒した新共和国は、元帝国軍人にも手厚い支援を行った。帝国軍人も、再教育施設に入れば、新しい人生をやり直すことが出来る。一見、人道的な措置に見えるが・・・実情は、個人の人権を軽視するディアストピア的な世界だ。元軍人は名前をはく奪されて番号で管理される。職業選択の自由もない。既定の場所以外への外出の自由もない。常に思想を問われ、正解を答えることしか許されない。果ては、洗脳装置による「緩和」だ。
新共和国側は、この帝国の装置を人道的に改修したと言う。だが、新共和国は、パーシングによるクローンの研究の発展を許さず、帝国の遺産もよく確認せずに捨てるような奴らだ。一方で帝国の遺産を捨てようとしているのに、もう一方で装置を使い回すダブルスタンダードの新共和国が、まともな改善を加えられたとは考えづらい。終盤でケインが装置をいじったこともあり、パーシング博士は廃人となるか、完全に洗脳されるかのどちらかになってしまうだろう。
新共和国は、人道的に正しいことをしようとしている。だが、自らが善人だと信じる人間の暴走ほど怖いものはない。彼らは、帝国の進んだ道を歩もうとしている。そして、コルサントの住民のような中上流階級の国民は、変わっていない。「政府が変わったとしても、自分たちの生活は変わらない」とどこ吹く風だ。新共和国は、帝国から変われない。
元帝国軍人たちは変化を受け入れている。しかし、こうも思う。「帝国は最悪だった。でも、悪い所ばかりじゃなかったよな」。新共和国は、帝国の技術を廃棄することで、自ら進化を放棄し、停滞に陥りつつある。そんな中で「良い所は進化させるべきだ。今度こそ、成功させる」と、過去の行動を悔いているパーシング博士のような人間は考える。そして、その考えはやがて帝国の一部を肯定し、ファースト・オーダーの設立へと繋がっていく。
パーシング博士のような人間は特別ではない。善くあろうとする人間が陥りかねない人物像だ。新共和国も特別に悪い政府ではない。正しいことをしようとするあまり、足元が見えなくなっている政府だ。この回が「自分が正しい」と考え、視野狭窄に陥っている現代社会を見事に描写している。
ボ=カターンとマンダロリアン
パーシングの物語が面白すぎて忘れそうになるが、本作はマンダロリアンの物語が本題だ!今回、グローグーは「我らの道」と喋ろうとしていた。彼もマンダロリアンになりつつある。また、ボ=カターンの城は帝国残党によって攻撃を受ける。この残党は明らかに戦力が多い。ファースト・オーダーや暗躍しているとみられるスローン大提督の差し金ではないかと疑いたくなる。ボ=カターンは、仲間も家も失い、ディンに導かれて、「チルドレン・オブ・ザ・ウォッチ」の隠れ家へ向かう。
ここで驚きの展開。ボ=カターンも、泉に浸かったからという理由で、「チルドレン」の仲間に認めらた。そんな論理でいいのかという疑問もわくが、彼らの信仰する教義とは、所詮はその程度にすぎないものなのだ。カルト的な「チルドレン」は、伝統を守る意味も考えずに、無意味に伝統に従っている。
今や仲間も家もないボ=カターンは、この状況を頭ごなしに否定することはなさそうだ。かつて「チルドレン」に自らの民を殺されたことがある彼女だが、同時に「チルドレン」もマンダロリアンの同胞であることは認めている。前回述べたように、ミソソーさえいれば、「新たな時代」を作れる。そうなれば、新たな教義も生まれ、「チルドレン」や他のマンダロリアンが共生できるようになるかもしれない。
豆知識
TIEインタープター、TIEボマー
『EP6/ジェダイの帰還』で初登場した新型のTIEファイター、TIE/inインターセプターと、爆撃機のTIE/saボマーが『マンダロリアン』に初登場!今まで登場していないTIEファイターをわざわざ登場させるのは、この帝国残党が、今までの帝国残党と示すためかもしれない。(なお、TIEボマーは『ボバ・フェット』の回想シーンには登場)
コルサント
プリクエル三部作で、物語の中心的な舞台となってきた惑星コルサントが再登場!昨年の実写ドラマ『キャシアン・アンドー』に続いての登場となる。ちなみに、このコルサントという名前は、スローン大提督が初登場する小説『帝国の後継者』でつけられた。なお、かつてこの地は共和国の首都だったが、この時点の新共和国の首都はシャンドリラである。
オペラ・ハウス
『EP3/シスの復讐』に登場したギャラクシーズ・オペラ・ハウスが再登場。EP3では、パルパティーンとアナキンが、このオペラ・ハウスでオペラを観劇しながら会話をしていた。この時に、パルパティーンは賢者ダース・プレイガスの話を語った。
トラベル・ビスケット
帝国軍で支給されていたと言われるトラベル・ビスケット。今回の重要アイテムだったが、実は初登場ではなく、レジェンズ(旧スピンオフ)時代からある設定。
マインド・フレイヤー
パーシング博士の「緩和」に使われた装置は、元々帝国が「マインド・フレイヤー(マインド操作)」に使っていたもの。『マンダロリアン』シーズン1の第八話で、キャラ・デューンは「帝国が私を捕まえたら、マインド・フレイヤーをする」と語っており、その存在は昔から知られていた。
スカイドーム植物園
タクシー・ドロイドは、コルサントの名所として「スカイドーム植物園」を挙げていた。この場所はレジェンズの小説『ジェダイの末裔』に初登場した。また、マイセスの花、銀河博物館、マンタボグなどの単語も、すでにレジェンズで登場している。
ウメイト山
コルサント最高峰の山で、唯一都市に覆われていない地表なのは、ウメイト山。レジェンズ時代の小説で度々言及されてきたが、正史でもアニメ『クローン・ウォーズ』や小説『ジェダイの光』に登場してきた。また、周囲のモニュメント・プラザのデザインには、ラルフ・マクウォーリーのコンセプトアートが流用されている。
レジスタンスのテーマ
ウメイト山の目の前の広場では、シークエル三部作で使用された「レジスタンスのテーマ」が流れていた。どうやら、スター・ウォーズ銀河内において、この曲は新共和国の曲となっているようだ。
ベンドゥデー、タングズデー
スター・ウォーズ銀河の曜日である、ベンドゥデーとタングズデーが映像作品で初言及。正史において、スター・ウォーズ銀河は五日で一週間であり、プライムデー、センタックスデー、タングズデー、ゼルデー、ベンドゥーデーに分けられる。標準的な月は7週間で、標準的な年は10ヶ月だ。ちなみに、ベンドゥとは旧ジェダイの前身組織や謎のフォース感応者の名前。タングとは、マンダロリアンの始祖とされる種族の名前だ。
また、列車内で、ケインは「今日はタングズデーだね」と話しかける。タングズデーは、まだ週の半ばなので、イヤになるねという意味の挨拶だろう。
「これは罠だ」
マインド・フレイヤーにかけられる直前、パーシング博士は「これは罠だ」とモン・カラマリの士官に訴えかける。これは、『EP6/ジェダイの帰還』で、アクバー提督が「これは罠だ」と言った名シーンのオマージュ。シリアスすぎて、笑っていいのか悩むところだ。
コンセプトアート
エンドクレジットで紹介されたコンセプトアートの中に、ゲーム『フォース・アンリーシュドII』より、ジュノ・エクリプスの姿が!なお、コンセプトアートにおけるキャラの代替はしばしば行われるので、深い意味はないだろう。内部にファンでも居たのか。
サブタイトル
豆知識というよりも不満だが、字幕ではサブタイトルが「転向」になっているのに、一覧ではサブタイトルが「改心」になっている。一覧に倣い、記事のタイトルは「改心」に変更した。