資料から読み解く、ジョージ・ルーカスのエピソード7案④:女性ジェダイ主人公、ハンとレイアの息子、隠遁したルーク

2023/03/05

映画 論考&解説

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エピソード7のコンセプトアート、ルーク、キラ&サム、ハン・ソロ

前回の記事では、ジョージ・ルーカスの「エピソード7」案が、レイアを中心にした物語だったこと、そしてダース・モールとダース・タロンが悪役として登場したことについて述べた。今回は、それ以外のルーカス案の要素:女性ジェダイの主人公、ハンとレイア、隠遁したルーク、について述べる。この記事だけでも完結するように心がけているが、前回の記事を読んでいた方がわかりやすいので、未読の方は是非ご一読いただきたい。

今回の要旨

ルーカスのエピソード7案でも、『フォースの覚醒』と同様に女性ジェダイが主人公となり、ハンとレイアの息子も物語の中心にあった。ハンとレイアの息子スカイラーは、女性シスのダース・タロンに誘惑されるなどを経験して暗黒面に堕ち、女性主人公テアはルークの弟子となった。

ルークも、『フォースの覚醒』と同様に隠遁した状態にあった。ジェダイの再建を目指したが失敗したルークは、心の傷を抱えながら辺境のジェダイ寺院へと逃れた。そこを訪れた女性主人公テアは、彼の弟子となる。ルークは、エピソード8で死亡するが、エピソード9ではジェダイ・オーダーが再建されたようだ。

また、闇堕ちする息子スカイラーの父親であるハン・ソロは、エピソード7で死亡した。

女性ジェダイ主人公と、スカイウォーカー家の末裔


Alt Thea /Alt Thea II by Iain McCaig

ジョージ・ルーカスの「エピソード7」初期案においては、14歳の少女のジェダイが主人公だったソース本]。ルーカスは、少女の名前をタリン、テア、ウィンキーと変更。JJエイブラムス監督も、名前をサリー、キラ、エコーと変更し、『フォースの覚醒』の撮影中にレイという名にたどり着いた。レイは初期案より5歳も年上だが、この変更はルーカス自身が行ったものであると示唆されている[ソース]。

Kira and Sam by Ian McCaig, Doug Chiang, Karl Lindberg, and Erik Tiemens

初期のアウトラインでは、女性ジェダイのキラ男性のサムの二人が中心だった[ソース本][5]。この両者の名前をつけたのはルーカスではなく、『フォースの覚醒』監督のJJエイブラムスで、ルーカスは男性を「スカイラー」、女性を「テア」と呼んでいたようだ。キラは後にレイとなり、サムは再構築されてカイロ・レンとフィンになった。ルーカスと共にエピソード7を執筆していた脚本家のマイケル・アーントは、サムのことを「純粋なカリスマ」、キラのことを「一匹狼、短気、ワル」と形容している。

Kira Victory concept art by Karl Lindberg
また、アーントはレイ(キラ)の出自について、「スカベンジャーであってほしいということは、初期の段階で決まっていた。彼女は、究極のアウトサイダーであり、究極の被差別民であってほしかった。海賊や商船隊など、いろいろな話を検討したのを覚えている」と述べている[ソース]。さらに2012年時点の執筆では、「(後の)レイが家にいて、家が破壊され、それから旅に出てルークに出会うというストーリーを書こうとした。そして、悪者を蹴散らしていく」物語になるはずだった[ソース]。この発言から、女性主人公はルークの縁故者ではなかったように思われる。

一方、「スカイラー」の出自について、物語を統括する立場のパブロ・ヒダルゴは、「いくつかのバージョンでは、(ハンとレイアの)息子だった」と明言している[5]。スカイラーという名前からして当然なのだが、彼はスカイウォーカー家の末裔として考えられていた。さらに、「ハンとレイアの息子が暗黒面に堕ちることは規定事項だった」こと、「ジェダイ・キラーは元々息子を堕落させるダース・タロンだったが、息子自身に変わった」ことも明かしている。なお、この「ジェダイの敵が息子自身に代わる」という変更は、2013年7月近辺の変更であり[ソース]、ルーカス案にはないアイデアだということは明白だ。つまり、前回述べたように、ダース・タロンによる息子の誘惑が、ルーカスのエピソード7案で描かれたのではないだろうか。

上述の情報を組み合わせて考えると、ルーカスのエピソード7案は、女性ジェダイ主人公と、ハンとレイアの息子が中心だったと推察される。さらに、スカイラーは物語の途中で、ダース・タロンの誘惑などを通じて暗黒面へと堕ちる。また、女性ジェダイ主人公は、前述のとおり、ルーク・スカイウォーカーの弟子となる。

ルークの隠遁

ルーカスのエピソード7案におけるルーク・スカイウォーカーを知るために、前回も引用した発言を今回も見ていこう[

「物語は、『ジェダイの帰還』の数年後から始まる。(中略)ルークがジェダイを再興しようとしていることが、すぐにわかる。10万人のジェダイのうち、50人か100人しか残っていない。ジェダイはまたゼロから育てなければならないので、ルークは2歳や3歳の子供たちを探して訓練する必要に迫られる。新しいジェダイの世代が生まれるまで、20年はかかる」

この発言によると、『EP6/ジェダイの帰還』の数年後から始まるエピソード7で、ルークは2歳や3歳の子どもを新たなジェダイとして訓練した。ただし前回指摘したように、この発言は、物語冒頭か初期案について述べているにすぎない可能性が高い。事実、先に述べたように、ルーカスはハンとレイアの息子スカイラーを物語の中心に置こうとしていた。これは、発言にあるような「『EP6/ジェダイの帰還』の数年後」がメインの舞台では不可能な考えだ。

Temple 04 by Clyne

一方で、確実にわかっていることもある。ルーカスは、隠遁したルークや、ルークの隠遁先のジェダイ聖堂のコンセプトアートのいくつかを自ら承認しているのだ[ソース本]。彼のエピソード7案においても、『フォースの覚醒』と同様に、ルークは隠遁していた。

ルーカスが承認したコンセプトアート by Alzmann

ルーカスに承認されたルークのコンセプトアートを描いたChristian Alzmannは、エピソード7案におけるルークについてこう語っている[ソース]。「ルークは、洞窟の中で世界から隠れているカーツ大佐のような存在として描かれていた」。カーツ大佐は、ルーカスが監督するはずだった映画『地獄の黙示録』の登場人物だ。ルーカスの盟友コッポラが監督する同作で、カーツ大佐は野蛮な戦場の経験で精神を病んだキャラクターとして描かれている。

Luke trapped by Alzmann

また、シークエル三部作全体を統括したアート・ディレクターのフィル・ショタクは、「弟子の裏切りに悩まされ、自らを追放し、精神的に<暗い場所>にいるルーク・スカイウォーカーのアイデアは2012年末にあった。ライアン・ジョンソン、JJエイブラムスが関与するよりも前だ」と語っている[ソース]。この裏切った弟子が、スカイラー(後のカイロ・レン)のことなのか、ダース・タロンのことなのか、それとも全く無関係な「ジェダイ・キラー」のことを指すのかは不明だ。

以上の「ルークがジェダイを再興させようとしている」という発言と、「彼が隠遁して精神的に暗い場所にいる」という情報を組み合わせれば、ルーカス案でもルークがジェダイ・オーダーの再建に失敗したであろうことことはわかる。さらに、ルークの最後について、ルーカスはこう語っている[]。

「三部作の終わりには、ルークがジェダイの大部分を再建し、新共和国が新たに誕生し、レイア・オーガナ議員が最高議長としてすべてを取り仕切ることになる」

この発言が言及してる¹2012年時点のルーカス案では、ルークが「エピソード9」でジェダイの大部分を再建し、ジェダイ・オーダーを復興させた。また、マーク・ハミルは、エピソード9で死ぬ前に、ルークがレイアを訓練するという案を聞いたようだ[ソース]。だが、ルーカスがディズニーに渡した草稿では、ルークはエピソード8で死亡している[ソース本]。この違いをどう受け止めるべきかは悩ましいが、フォースの霊体になれることを考えると、ルークの死は大きな意味を成さないかもしれない。ただ、ジェダイ・オーダーが再建されたという事実はあるだろう。

Sun duo 01 by McCaig
ルークは、ジェダイ・オーダーの再建を目指したが、失敗。辺境のジェダイ寺院に隠遁することになる。そして、そこを訪れるのが女性のフォース感応力を持った主人公。彼女はルークの弟子となる。ルーカスのエピソード7案でも、このあたりの流れは『フォースの覚醒』と同じだ。ただし、ディズニーの三部作とは異なり、ルーカスの三部作の終わりには、ジェダイ・オーダーの再建が描かれた可能性が高い。

ハン・ソロについて

Han Solo by Alzmann
おまけのような形だが、ルーカス案におけるハン・ソロについても述べておこう。はじめエピソード7におけるハンの役割はもっと小さなものとして考えられていたようだ[ソース本]。また、演じるハリソン・フォードは、ルーカスから出演依頼の電話を受けた際に、ハンがエピソード7で死ぬことを聞かされた[ソース]。ただし、2013年の晩夏に息子がハンを殺すことが決定された[ソース本]ので、ルーカス案においてはハンが息子に殺されるという最期ではなかったと思われる。

第一回でも述べたが、ジョージ・ルーカスはディズニー製のエピソード7である『フォースの覚醒』に否定的だった。しかし、今回示したように『フォースの覚醒』はルーカスの「エピソード7」案の多くを受け継いでいる。ディズニー製のスター・ウォーズは、ルーカスの「遺産」を無視しているわけではない。映画『フォースの覚醒』のみならず、『反乱者たち』や『マンダロリアン』などのアニメ・ドラマに、ルーカスのアイデアは息づいているのだ。次回は、ディズニー製のスター・ウォーズが受け継いだルーカスの「エピソード7」案の要素を見ていこう。

次回:ディズニー製のスター・ウォーズが受け継いだルーカスの「エピソード7」案

付録:パブロ・ヒダルゴのTwitter
ストーリーグループの重鎮パブロ・ヒダルゴは、Twitter上で様々なスター・ウォーズの裏話を提供してくれるのだが、一度アカウントを削除してしまった。その際の発言が消えているので、引用した箇所の全文をこちらに残しておく。
[5]パブロ・ヒダルゴのTwitter上の発言

「Skyler and Kira (and Kira wasn’t the first proposed name either; she had at least two others) became, after a fashion, Finn and Rey. The Jedi Killer morphed from Talon corrupting the son to becoming the son. Uber became Snoke. The starting point shifted. Yadda yada yada.」
「The son falling to the dark side was always in the mix. The movies just ended up having it already an established fact.」
「Skyler was the son in some versions. And as for how all that was gonna go down, that ain’t my story to tell.」

注1:[4]として引用した発言は、ルーカスが「2012年時点のエピソード7初期案」について語ったものだとされている[ソース

注:コンセプトアートは、『The Art of The Force Awakens』、『The Art of The Last Jedi』、『Star Wars: Fascinating Facts』より。いずれも制作初期のものであるが、必ずしもルーカス案に基づいたものだとは断言できない。

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