資料から読み解く、ジョージ・ルーカスのエピソード7案③:「選ばれしもの」レイア、悪役ダース・モール

2023/02/26

映画 論考&解説

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ダース・タロン、ダース・モール、キャリー・フィッシャー、ジョージ・ルーカス

前回の記事では、ジョージ・ルーカスが自身の「エピソード7」案のテーマにしようとしたウィルズと共生について述べた。今回は、ルーカスが2012年時点の案(という建前?)で語った、ストーリーの具体的な内容について見ていく。この案では、ダース・モールと、レイア・オーガナが重要な役割を果たした。

今回の要旨

ルーカスは、自身の「エピソード7」案で、戦争の余波で混乱する銀河を舞台にしようと考えていた。それは、アメリカの「対テロ戦争」への批判でもある。そのために、『EP6/ジェダイの帰還』の数年後から物語を始めようとしていた。

そして、幅を利かせるギャングをまとめあげる悪役として再登場するのが、ダース・モールである。『クローン・ウォーズ』で描かれたように死の淵から復活した彼は、帝国の跡を引き継ぐ。モールの弟子はコミックから輸入されたダース・タロンであり、ハンとレイアの息子を暗黒面へ誘惑する役柄となったようだ。

ルーカスのシークエル三部作(EP7~EP9)で、真の「選ばれしもの」として示されるのは、レイア・オーガナである。彼女は三部作の最後には、新共和国の最高議長となる。ルークからフォースの技も学んだ彼女は、政治家としても、ジェダイの後継者としても、「フォースのバランス」(≒共生)をもたらす存在となる。

ルーカスの「エピソード7」の舞台設定

第一回でも述べたように、ルーカスはディズニーのエピソード7『フォースの覚醒』に「真新しいものがない」と強い不満を抱いていた。実際に、彼のエピソード7案における「悪の組織」は、『フォースの覚醒』と異なるものだった[4]。

「反乱軍が勝利した後の私のシークエル三部作(EP7~EP9)では、いわゆるストームトルーパーは登場せず、イラク戦争の後に起こったことから着想を得た。<よし、戦争でみんなを殺したぞ、さあどうする?>とね。その後の再建は、反乱を起こしたり、戦争をしたりするよりも難しい。戦争に勝って、相手の軍隊を解散させたら、彼らはどうするんだ?ストームトルーパーは、サダム・フセインのバース党の戦闘員が、イスラム国(ISIS、ISIL)に参加して戦い続けたようなものだろう。ストームトルーパーは、共和国が勝っても諦めない。彼らは永遠にストームトルーパーでいたい。だから、銀河の片隅に行き、自分たちの国と自分たちの反乱軍を立ち上げる、権力の空白があるので、ハットのようなギャングがつけ込んできて、状況は混沌としている

現実世界を物語に落とし込むことを得意とするルーカスは、世界中で問題になった「イスラム国」のような組織をエピソード7の悪の組織としようとしていた。イスラム国とは、2013年に「建国」を宣言したテロ組織である。この組織には、アメリカが「対テロ戦争」のイラク戦争で壊滅させたはずのバース党の残党が多く加わっており、アメリカの失敗が混乱の元凶だとされている。イラク戦争は、「大量破壊兵器を持っている」という侵攻の大義名分が偽りであったことや、戦争の泥沼化により、大きな非難を受けている。この対テロ戦争の失敗をルーカスは描こうとしていたようだ。

『フォースの覚醒』は、銀河帝国と遜色ない描かれ方をしたファースト・オーダーを悪の組織とした。一方、ルーカスのエピソード7案は、テロ組織やギャングを悪の組織として登場させようとした。どちらも、アメリカ的な民主主義の敗北を描くものではあるが、ルーカス案の方が、より現実に即した描写で、より批判的だっただろう。

さらに、物語冒頭の時代設定でさえも、ルーカスは別のアイデアを持っていた[4]

物語は、『ジェダイの帰還』の数年後から始まる。裏社会があること、惑星を支配下においた独立したストームトルーパーがいること、そしてルークがジェダイを再興しようとしていることが、すぐにわかる。10万人のジェダイのうち、50人か100人しか残っていない。ジェダイはまたゼロから育てなければならないので、ルークは2歳や3歳の子供たちを探して訓練する必要に迫られる。新しいジェダイの世代が生まれるまで、20年はかかる」

『EP6/ジェダイの帰還』の数年後から物語を始めようとしていたことは、驚きだ。ルーカスがこのエピソード7案を執筆していた2012年時点で、『EP4/新たなる希望』の公開から35年が経過しており、映像加工を施さずにオリジナルの俳優陣が演じるのは難しかっただろう。

だが、ここで述べられている舞台設定は、物語の導入部分だけの設定であるという見方が正しいように思われる。詳細は次回の第四回で述べるが、ルーカスのエピソード7の大部分において、ルークは「ジェダイを復興しようとしている」というよりは隠遁状態にあり、またエピソード7の主人公は「育つまで20年はかかる」はずの新しいジェダイの世代だからだ。もちろんその最終案が変更された可能性もあるが、彼のエピソード7案でも、物語の大部分の時代設定は、『フォースの覚醒』とさほど変わらなかったのではないか。

悪役ダース・モールとダース・タロン

エピソード7の悪役についてルーカスは、『フォースの覚醒』と明らかに違うアイデアを持っていた。プリクエル三部作の大人気悪役を帰還させようとしていたのだ[4]

「権力の空白があるので、ハットのようなギャングがつけ込んできて、状況は混沌としている。キーパーソンは、アニメ『クローン・ウォーズ』で復活したダース・モールだ。彼がすべてのギャングをまとめ上げる。

(モールは)とても年を取っていて、2種類のバージョンがある。1つは蜘蛛のようなサイバネティックな脚を持つバージョンで、もう1つは金属の脚を持ち、もう少し大きくなって、スーパーヒーローのようなバージョンだ。これはすべて、アニメシリーズ(『クローン・ウォーズ』)でやったことで、彼はたくさんのエピソードに登場している。 (中略) モールは、帝国の崩壊後に、跡を引き継ぎ、最終的に宇宙の犯罪のゴッドファーザーになる

新たな悪役となるのは、『EP1/ファントム・メナス』で敗北したパルパティーンの弟子ダース・モールだ。彼は、シスを継ぐ新たな脅威、犯罪王として帰還するはずだった。EP1制作当時、ルーカスはモールの死を明確にしようと、その体を真っ二つにした。しかし、後に決定を覆し、自らが指揮したアニメ『クローン・ウォーズ』でモールを復活させている。モールは、同作のシーズン5までにマンダロリアンを吸収し、パルパティーンやジェダイとは違う第三の勢力を築こうとしていた。その結末として、モールはパルパティーンに敗れたが、その彼がエピソード7で華々しい復活を遂げる(彼が再び登場する『クローン・ウォーズ』のシーズン7はルーカス指揮下にないことは注意が必要である)。

モールのエピソード7への再登場は、『クローン・ウォーズ』制作当時から考えられていたようにも思える。実際に、第三勢力を築き、かつての師であるパルパティーンの勢力を奪おうとする姿勢は共通している。ただし、第一回でも述べたように、ルーカスは会社を売却するためにエピソード7を執筆し始めた。自身のテーマに合致する存在を拾い上げたという見方が正しいだろう。

また、モールの弟子として、コミックの人気キャラも登場させるつもりであった[4]。

「ダース・モールは、コミック(『Legacy』)に登場するダース・タロンという少女を弟子にした。タロンは、新しいダース・ヴェイダーで、ほとんど行動を彼女とともにする。つまり、この二人が三部作のメイン・ヴィランだったわけだ」

ダース・タロンは、レジェンズ(旧設定)の未翻訳コミック『Legacy』に登場した女性トワイレックのシス卿である。スカイウォーカー家の子孫であるケイド・スカイウォーカーを誘惑したことで知られる。ジョージ・ルーカスはこのキャラクターのデザインが気に入っており、2011年6月にキャンセルされたゲーム『Battle of the Sith Lords』に、モールとタロンを登場させるように要請していたと言われている[ソース]。ちなみに彼は、同コミックの作者が生み出したアイラ・セキュラを『EP2/クローンの攻撃』に登場させたこともある。

初期のコンセプトアートで、タロンらしき人物は邪悪な存在の「ウーバー(Uber)」と共に描かれている。このウーバーの正体がダース・モールだった可能性もある。

「ダース・タロン」とウーバー
by Ian McCaig 2013年1月[ソース本

また、タロンは、ハンとレイアの息子をダークサイドに誘惑するキャラとして考えられていたようだ。このキャラクターは2013年2月の『Seduction』と題された絵コンテにも登場している。

エピソード7絵コンテ:誘惑するダース・タロン
by Ian McCaig 2013年1月[ソース本

加えて、同月のコンセプトアート「Bar」の左端にも、タロンらしき存在を確認できる。

「ダース・タロン」とバー
by Christian Alzmann 2013年2月[ソース本

コンセプトアートや絵コンテに描かれたタロンの設定が、必ずしもルーカスのアイデアだとは限らないが、2013年初頭の時点ではルーカス案に基づいた制作が行われていたであろうこと、元々のコミックの設定がスカイウォーカー家の子孫を誘惑する存在であったことを考えると、「ハンとレイアの息子をダース・タロンが誘惑する」という流れは、ルーカスのアイデアだと考えられる。

「選ばれしもの」レイア

「エピソード7」コンセプトアート:レイア姫
Princess Leia Revised by Ian McCaig 2013年1月[ソース本

そして、ルーカスのエピソード7案においては、レイアが主人公級の扱いとなるはずだった[4]

「私は、最初の三部作は父親、二番目の三部作は息子、三番目の三部作は、娘と孫の物語にしようと思っていた。(中略) 映画では、レイアが共和国を引き継ごうとする。他の誰が、リーダーになるんだ? 共和国という組織は存在するが、ギャングから支配権を奪わなければならない。それがメイン・ストーリーだった」

ルーカスは、シークエル三部作(EP7~EP9)で、政治家としてのレイアを描くつもりだったようだ。母パドメにも重なる姿だ。前述したように、彼のエピソード7案は、アメリカの「対テロ戦争」の失敗をモデルとした政治色の強いものであった。プリクエル三部作(EP1~EP3)では民主主義の敗北を描き、その次に制作するシークエル三部作は民主主義の再建を描くつもりだったのだろう。

『フォースの覚醒』において、レイアは既に新共和国を離脱しており、レジスタンスの将軍という立ち位置であった。その離脱の過程は、『フォースの覚醒』の6年前が舞台の小説『ブラッドライン』で描かれている。同作では、新共和国元老院が「ポピュリスト」と「セントリスト」に分裂しており、レイアは、友人で同時に政敵だったセントリストのランソム・カスタルフォに、ヴェイダーの娘であることを告発され、失脚した。ストーリーグループのパブロ・ヒダルゴによると、このカスタルフォは、エピソード7の初期案に存在したキャラクターである[ソース]。このことから、ルーカスのエピソード7案において、新共和国内でのレイアの政治的な苦境が描かれたのかもしれない。

続けて、ルーカスはレイアこそが「選ばれしもの」であることも明かした[4]

「三部作の終わりには、ルークがジェダイの大部分を再建し、新共和国が新たに誕生し、レイア・オーガナ議員が最高議長としてすべてを取り仕切ることになる。つまり、彼女こそが<選ばれしもの>だったのだ

最後にレイアは新共和国を率いる最高議長の地位に就任する。このことが、彼女を「選ばれしもの」たらしめている。今まではシスを打倒したアナキンこそが、フォースにバランスをもたらす「選ばれしもの」であるという風に扱われていたが、ルーカスはそれを変更しようとした。

もちろん、アナキンのシスを倒す行為は正義であろう。だが、前回述べたように、「フォースにバランスをもたらす」ことは、「共生すること」の類義語である。それは、敵を打倒するだけでは達成できない。実際に、ルーカスは「真のジェダイであるならば、敵であるシスをも愛するべきだ」と明言している[ソース本]。敵とすら共生していく。それはアナキンが成しえなかったことだ。共生のためには、やはり政治の力、多様性をはぐぐむ民主主義の力が必要だ。だからこそ、レイアが選ばれしものであるのではないだろうか。

また、マーク・ハミルは、「ジョージ・ルーカスのシークエル三部作では、レイアがフォースの能力を完全に会得した」と述べている[ソース]。別のインタビューでは、「ルーカス案では、エピソード9でルークが死ぬ前に、彼女を訓練していただろう」とも語っている[ソース]。この発言は、一部で食い違っており、ルーカスの最終的なアイデアにどれだけ寄り添ったものなのかは分からないが、フォースの予言(≒「ウィルズ」の予言)を成就する立場のレイアが、フォースを会得するのは当然の流れであろう。

レイアは、母パドメから政治の能力を、父アナキンからフォースの能力を受け継いでいる。それゆえに、社会においても、そしてウィルズ(≒フォースの意志)と成す生態系においても、スター・ウォーズの究極の目標である「共生」を達成する能力を持っているのだろう。レイアが選ばれしものであるという設定変更はスター・ウォーズへの見方を変えるものだが、同時に納得がいくものでもある。

あくまでも、[4]として引用したルーカスの発言は、様々な都合を排除した2012年時点のアイデアである[ソース]。実際にルーカスは、交渉段階においてオリジナル三部作のキャストに「出演したくないのであれば、キャラは登場させない」と語っていた[ソース]。だが、彼の口ぶりからして、これらが描きたかったアイデアなのは間違いない。

さて、今回はエピソード7の舞台設定、悪役であるモールとタロン、そして選ばれしもののレイアについて述べた。シークエル三部作は、「娘と孫」の物語であり、これらはルーカス案の根幹をなす。一方で、主人公である「孫」世代と、「息子」のルークについてはまだ触れていない。次回は、彼らがどのような存在として考えられていたかを見ていこう。

次回

隠遁したルーク、女ジェダイの主人公、スカイウォーカー家の末裔

付録:ルーカスの発言の全文

記事中では分かりやすさを優先し、ジョージ・ルーカスの発言の一部を再構成した。前回と同様に、最後に該当部分の全訳を引用しておく。

[4]ポール・ダンカンのインタビューでの発言、『The Star Wars Archives: Episodes I–III, 1999–2005』(2020年)より

「反乱軍が勝利した後の私のシークエル三部作では、いわゆるストームトルーパーは登場しなかった。

私は、最初の三部作は父親、二番目の三部作は息子、三番目の三部作は、娘と孫の物語にしようと思っていた。

エピソード7、エピソード8、エピソード9は、イラク戦争の後に起こったことから着想を得た。<よし、戦争でみんなを殺したぞ、さあどうする?>とね。その後の再建は、反乱を起こしたり、戦争をしたりするよりも難しいんだ。戦争に勝って、相手の軍隊を解散させたら、彼らはどうするんだ?ストームトルーパーは、サダム・フセインのバース党の戦闘員が、イスラム国(ISIS、ISIL)に参加して戦い続けたようなものだろう。ストームトルーパーは、共和国が勝ってもあきらめない。

彼らは永遠にストームトルーパーでいたい。だから、銀河の片隅に行き、自分たちの国と自分たちの反乱軍を立ち上げる。

権力の空白があるので、ハットのようなギャングがつけ込んできて、状況は混沌としている。キーパーソンは、アニメ『クローン・ウォーズ』で復活したダース・モールだ。彼がすべてのギャングをまとめ上げる。

(ダース・モールは、メイン・ヴィランだったが、)彼はとても年を取っていて、2種類のバージョンがある。1つは蜘蛛のようなサイバネティックな脚を持つバージョンで、もう1つは金属の脚を持ち、もう少し大きくなって、スーパーヒーローのようなバージョンだ。これはすべて、アニメシリーズでやったことで、彼はたくさんのエピソードに登場している。

ダース・モールは、コミックに登場するダース・タロンという少女を弟子にした。彼女は、新しいダース・ヴェイダーで、ほとんど行動を彼女とともにする。つまり、この2人が、三部作のメイン・ヴィランだったわけだ。モールは、帝国の崩壊後に、跡を引き継ぎ、最終的に宇宙の犯罪のゴッドファーザーになる。

映画では、レイアが共和国を引き継ごうとする。他の誰が、リーダーになるんだ? 共和国という組織は存在するが、ギャングから支配権を奪わなければならない。それがメイン・ストーリーだった。

物語は、『ジェダイの帰還』の数年後から始まる。裏社会があること、惑星を支配下においた独立したストームトルーパーがいること、そしてルークがジェダイを再興しようとしていることが、すぐにわかる。10万人のジェダイのうち、50人か100人しか残っていない。ジェダイはまたゼロから育てなければならないので、ルークは2歳や3歳の子供たちを探して訓練する必要に迫られる。新しいジェダイの世代が生まれるまで、20年はかかる。

三部作の終わりには、ルークがジェダイの大部分を再建し、新共和国が新たに誕生し、レイア・オーガナ議員が最高議長としてすべてを取り仕切ることになる。つまり、彼女こそが<選ばれし者>だったのだ」

 参考文献

George Lucas’ Episode VII Everything we know about George’s vision for the seventh Star Wars movie.

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