- 第十話「道は一つ(One Way Out)」
- 監督:トビーヘインズ
- 脚本:ボー・ウィリモン
- 評価: ★9.6/10(IMDbユーザー評価)
制作陣が語るキノ・ロイの人間性
前回、同僚のウラフの死を経て、キャシアン・アンドーとキノ・ロイは、残酷な真実を知った。囚人は、刑務所から釈放されることはない。そして、真実に気づけば殺される。「誰も聞いちゃいない」ことに気付いたキノの心は、脱獄へと傾く。だが、ブザーを聞くとキノはまた怯え、決められた所定姿勢をとろうとする。彼は刑務所のシステムに心まで支配され、考える力を失っていた。だが、キャシアンは語り掛ける。「新入りが入ってくる明日しかチャンスはない。どうせなら、奴らと戦って死のう」。キャシアンの折れない反抗心にキノは突き動かされていく。
監房では、キャシアンから真実を聞かされた囚人たちが混乱に陥る。騒がしい囚人を背に葛藤した末、キノ・ロイは、「誰も刑務所から出られない!」と叫ぶ。そして、自分に言い聞かせるように「これからどうするか考えろ」と語る。言葉にすることで、彼は真実をようやく受け止めた。一晩経った後、キノの心は、決まった。「逃げ出すための道は一つだ」。「もう死んだつもりで行動する」。彼は、命を落とす危険性を承知で、囚人仲間を救える唯一の道を選んだ。
決行の時。キャシアンは、水漏れで電気ショックが流れる床を無効化し、看守に襲い掛かる。リーダーのキノの「かかれ!登れ!」の号令の下、囚人たちは一致団結して立ち向かう。瞬く間に全体を掌握・無力化した後、キャシアンに促されて、キノは仲間に呼びかけ始める。最初は、キャシアンの「奴らと戦って死のう」という言葉を借りて、オドオドと。だが、徐々に自分の言葉を紡ぎ出す。そして、天性のリーダーシップを発揮しながら叫ぶ。「道は一つだ!」。
「道は一つだ!」。「道は一つだ!」。囚人たちのシュプレヒコール。看守は圧倒され、恐怖する。権力を振りかざしていただけで、彼ら自身が強いわけではない。一つの道を突き進む男たちは、やがて海へと飛び込む。キャシアンも続こうとするが、キノ・ロイは打ち明ける。「俺は泳げない」。一瞬だが、キノの顔に皮肉めいた笑みが浮かぶ。キノは、泳いで逃げるのが「唯一の道」だと知っていたはずだ。だが、「死んだつもりで行動した」彼は、その命を囚人仲間たちに捧げることを選んだ。
このキノ・ロイを演じたのは、名優アンディ・サーキス。シークエル三部作では、スノークを演じていた。今回のキノは、彼がリブート版『猿の惑星』で演じたシーザーに重なる部分があった。彼のボス猿的なリーダーシップと仲間思いな演技は、囚人のリーダーとしてふさわしい。
サーキスは、キノ・ロイというキャラについて、こう語っている。「キノは、生粋のリーダーで、労働者の権利を守るために組合長として戦い、投獄されてしまった。そして、思いやりを失った。刑期を生き延びよう、拷問を受け入れよう、鈍感になろう……。彼は殻に閉じこもった。家族を持つ彼は、ただ刑期を全うしたいだけなんだ」。キノは、本来は思いやりあふれる人間だった。だが、刑務所のシステムに変えられてしまっていた。
また別のインタビューで、サーキスはこうも語っている。「キャシアンとの対話で、彼は〈釈放されることはない〉と悟る。そして、再び、彼の心に灯がともる。第十話で彼は〈個人の力が他人を助け、団結すれば未来の形を変える〉という自分の根底にある信念に従い、行動する。その結果、最後のシーンでは犠牲を払った。彼の〈泳げないんだ〉という台詞は、彼が自らの運命と折り合いをつけたことを意味する」。彼はキャシアンのおかげで、最後には自分を取り戻すことが出来た。
ちなみに、キノが死んだかどうかは、総指揮のトニー・ギルロイも、演じたサーキスも明言はしていない。自分の本心に気付き、恐怖に打ち克つことを知ったキノは、もし反乱軍に加われば、頼もしい仲間となるだろう。または、家族と再会し、幸せに過ごす彼の姿も見てみたい・・・。
キャシアンという裏方の扇動家
ここまでは、脱獄事件のリーダーであるキノ・ロイについて書いてきた。この物語の主人公はキャシアン・アンドーなのだが、彼は徹底的に影の黒幕に徹しており、今回はキノの方が主人公のようだった。キャシアンの役割は、周りを扇動し、反乱者へと変えていく裏方だ。
まず、キャシアン・アンドーという名前は、今回の事件に残らない。彼は、キーフ・カーゴという偽名で投獄されている。さらに、囚人や看守たちは、キノ・ロイが主犯だと認識している。だが、キノ・ロイを焚き付け、脱獄事件を成功させたのは、キャシアンの手腕によるものだ。
怯えるキノを煽り、自らの言葉で現実を認めさせ、自分たちが発案していた脱獄計画にキノを巻き込む。戦闘中もキノに指示を飛ばし、彼を制御室へといざなった。そして、キノを通じて、「どうせなら、奴らと戦って死のう」という考えを全体へと広めている。キャシアンは、優秀な裏方の扇動家なのだ。見方によっては、キノが口車に乗せられた被害者にも思えてくる。
このキャシアンの姿は、徹底して陰に身をひそめるルーセン・レイエルにも重なる。やがてキャシアンも、反乱のために「全てを犠牲」に汚れ仕事を引き受けることを考えると、似ているのは必然だ。二人は、歴史に名を残さない影の脇役として活躍する。
反乱のための犠牲
反乱活動のために、資金調達を繰り返してきた惑星シャンドリラ選出の元老院議員モン・モスマ。帝国の監査に目を付けられてしまい、このまま大金を用意できなければ、反乱分子との繋がりが露呈してしまう。元恋人のテイ・コルマと共に苦肉の策を捻りだし、チンピラの銀行家ダヴォ・スカルダンに融資を頼むことにした。
ダヴォは、伝統を重んじ、特権階級の立場を矜持している。同じく特権階級のモスマに表向きは紳士的な上に、帝国への忠誠心もなく、法の抜け穴にも熟知している。話はまとまりかけるが、彼は利子として、息子をモスマの娘リーダに紹介したいと提案してきた。シャンドリラの伝統に則り、二人をお見合い婚でくっつける算段だ。自身もお見合い婚で苦労しているモスマは、当然「考えるはずもない」と、その提案をはねのける。だが、嗅覚の鋭いダヴォは、その言葉の裏にある迷いに気付く。「それは嘘だな」。
反乱活動、大義のために人生を費やしてきたモン・モスマ。従姉妹のヴェル・サーサや、盟友のルーセン・レイエルは、家族や恋人すら犠牲にしてきた。だが、モスマは娘をそう簡単に切り捨てることはできない。かといって反乱活動を危険にさらすわけにもいかない。彼女は、家族を選ぶのか、それとも反乱を選ぶのか。難しい選択を迫られる。
反乱分子のもう一人のリーダー、ルーセン・レイエルは、帝国保安局(ISB)内部に送り込んだスパイのロニ・ユングとコルサントの下層で接触する。ロニは、監査官のデドラ・ミーロがルーセンの正体に迫っていることを忠告するが、彼は「時間を無駄にするだけだ」と気にも留めない。また、アント・クリーガー派の計画が漏れていることを知っても、「スパイの君の方が、クリーガー派の50人よりも価値がある」と述べ、救おうとはしない。ルーセンは、徹底的に冷徹かつ合理的であり、自分の命も他人の命も平等に安く見積もっている。
そして、面と向かって対面するルーセンとロニ。ここまでのロニの話は、ルーセンへの”餞別”だった。娘が生まれたロニは、危険なスパイ活動から手を引きたいと考えている。当然、ルーセンは、認めない。自分だけが危険な橋を渡らされていると不満げなロニは、問いかける。「あなたは何を犠牲にしたのか?」。ルーセンは、感情的に応える。「私は、平穏、優しさ、ぬくもり、愛の全てを犠牲にしてきた。亡霊と夢を分かち合い、見ることのない夜明けのために命を燃やしている」。
今回の第十話は、反乱とその犠牲について描かれていた。キノ・ロイは、自らの命を犠牲に、反乱を成功させた。モン・モスマは、反乱のために家族を犠牲にすべきか悩んでいる。ロニ・ユングは、家族を守るために、反乱を諦めようとした。ルーセン・レイエルは、反乱のためにすべてを犠牲にしてきている。「ローグ・ワン分隊」のメンバーたちが全滅したように、スター・ウォーズの舞台裏には今まで描かれてこなかった大きな犠牲があった。
ルーセンは、ロニに「英雄になる」ことを求める。同時に、「自分を見守る観客もおらず、自分が脚光を浴びることもない」ことも理解している。この台詞から、『ローグ・ワン』や『キャシアン・アンドー』のテーマが分かる。この物語は、主人公ではない、特別な力を持たない、歴史に埋もれてしまうような人間たちの物語だ。しかし、どんなに劇的な事件にも、その裏には、汚れ仕事や目立たないありふれた仕事があるものだ。
豆知識
パドメの頭飾り
ルーセン・レイエルの骨董品屋では、『Ep2 クローンの攻撃』でパドメ・アミダラが着用していた頭飾りらしきものを見ることが出来る。
刑務所の形
キャシアンが収容されていたナーキーナ・ファイブの刑務所の形は、帝国のシンボルに似ている。囚人が泳いで刑務所から逃げ出すシーンは、含みのある画となっている。
コルサントのアンダーワールド
ルーセン・レイエルと、彼のスパイであるロニは、コルサントの下層で密談を行う。コルサントの下層(アンダーワールド)は、『クローン・ウォーズ』にも登場した貧民街。総指揮のトニー・ギルロイによると、頓挫したゲーム『1313』やドラマ『Underworld』に影響を
受けて、登場させた。