【考察・感想・豆知識】ドラマ『キャシアン・アンドー』第八話:正統派ディストピアもの

2022/10/30

キャシアン・アンドー レビュー

t f B! P L

  • 第七話「ナーキーナ・ファイブ(Narkina 5)」
  • 監督:トビーヘインズ
  • 脚本:ボー・ウィリモン
  • 評価: ★8.3/10(IMDbユーザー評価)


アニメ『テイルズ・オブ・ジェダイ』と同時配信となった今回のエピソード。あちらがおとぎ話だとすれば、こちらは正統派ディストピア・ドラマだ。今まで何となく悪だった帝国の支配の究極形が描かれ、我々にも恐ろしく思える。また、『ローグ・ワン』に繋がるキャラクターである、メルシやソウ・ゲレラも登場した。いよいよ反乱同盟軍が結成されそうだ。



ディストピアの刑務所




前回、無実の罪で捕まったキーフ・カーゴこと、キャシアン・アンドー。送致された先は、ナーキーナ・ファイブに位置する刑務所だった。「ほかの刑務所よりも清潔で暴力が少ない」この刑務所は、床に流れる電気ショックで、囚人を暴力的に管理する究極の管理社会だった。

点数で徹底的に管理された囚人たちは、チューブ食事の味という最低限のアメと、電気ショックという効率的なムチで支配されている。ライン工場の一部に成り下がった彼らは、マルクスの言うところの「労働の疎外」の状態にある。ルーカス監督の処女作『THX-1138』が描いたようなディストピア社会だ。

キャシアンは、ただ圧倒され、困惑する。彼が刑務所に入れられたのも、仲間たちの刑期が倍になったのも、キャシアンが参加した「アルダーニ事件」と再判令の影響なのだが、彼はまだそのことを呑み込めていない。




反乱同盟を創設しようとする本作の黒幕ルーセン・レイエルは、「帝国の支配が苛烈になれば、人々は立ち上がる」と考え、再判令を望んでいた。しかし、この刑務所では、帝国に徹底管理された人々の実態が浮かび上がる。権力欲のあるキノ・ロイのような人間は、帝国にすり寄り、さらに弱い者を支配する。囚人たちは、アメとムチに完全に支配され、思考力を奪われ、自殺した仲間に同情すら見せない。キャシアンと同じ班のルースコット・メルシは、彼に「希望なんて持つな」と忠告する。

実は、このメルシは、『ローグ・ワン』にも登場していたキャラで、後にキャシアンと共にスカリフの戦いにも参加している。つまり、二人そろってここから脱獄することとなる。刑務所内は、人手不足で、しかも手話によってほかの塔の囚人とも意思疎通がとれる様子だった。つけ入る隙はある。彼らは、反乱によって、帝国がもたらす究極のディストピア社会を破壊するのだろう。


反乱同盟の結成へそれぞれの思い




モン・モスマは、再判令に反対するための票集めに、パーティーを開いている。もっとも、モン・モスマは、自分でも語っているように「そう見せることが得意」なだけで、本来の目的は銀行家のテイ・コルマとの打ち合わせだ。彼女は、反乱活動のために資金の都合をつけようとしていた。このパーティーでも、ルーセンの思惑とは外れた、再判令への反応がある。一部の政治家は、再判令が自分とは関係ないものだと捉え、重視していない。帝国の支配をとことん受け入れてしまっている。

惑星フェリックスのマーヴァ・アンドーは、反乱に向けて、老体にムチを打って活動していた。彼女は、秘密のトンネルから、帝国軍に不意打ちで攻撃を仕掛けようとしている。ビックス・カリーンは、マーヴァの体調を気遣い、キャシアンに知らせようと、ルーセンに連絡をとろうとする。だが、それが仇となり、帝国に目を付けられ、拘束されてしまった。




キャシアンを探しているのは、ビックスだけではない。身元が割れるのを恐れたルーセンから命令を受け、ヴェル・サーサシンタ・カースは、ビックスたちを注視している。シンタは、確実にキャシアンを見つけるため、独りでここに残ると主張する。ヴェルは、恋人との別れを嫌がるが、最終的には説得されてしまう。

シンタ曰く、ヴェルは「家族から逃げる金持ちの娘」であるそうだ。その直後には、「私はあなたの鏡」というシンタの台詞を受けて、シンタをヴェルの鏡に見せるバスの中の場面がある。注目したいのは、バスの中というシチュエーション。フェリックスで、バスに乗っていた人物と言えば、黒幕のルーセンだ。もしかして、ルーセンが、ヴェルの父親なのか・・・?




そのルーセン・レイエルは、キャシアンの一件で、やや取り乱している。右腕のクレヤ・マーキからは「耄碌した」とまで言われる始末。だが、ルーセンにそんな自覚はない。彼は、反乱組織の結束を目指し、自らソウ・ゲレラのもとに赴く。現状では別々の組織である彼らは、互いに相手の腹の中を探る舌戦を繰り広げる。ルーセンは、武器の提供を餌に、他組織との合流を求めるが、アナーキストで、他人を信用しないソウは、それを断った。

だが、やがてソウは、反乱同盟軍に加わることになる。信念を持つ者ではなく、「ただ帝国の増長を恐れる臆病者」のルーセンだからこそ、政治信条の違いを超え、清濁併せ呑む組織を作ることが出来るのかもしれない。このエピソードの監督のヘインズも「何かを成し遂げるためには、善と悪の間の人間が必要だ」と語っていた。


キャシアンを追う帝国




帝国保安局(ISB)のデドラ・ミーロ監査官は、上司の支援を受け、惑星フェリックスの管轄権を得た。反乱組織を結成しようとする黒幕の「アクシス」(ルーセン・レイエル)を追う彼女は、まずキャシアン・アンドーを捕らえる必要がある。彼女は、キャシアンに固執する元捜査官のシリル・カーンを呼び出した。

シリルは、偽の報告をでっちあげてまで、キャシアンを見つけ出そうとしていた。彼は「正しく帝国に貢献したい」と主張し、自分のことをデドラへと売り込む。だが、デドラは取り合わなかった。シリルの根底にあるのは、親から認められ、独立したいという欲求であり、キャシアンはその道具にすぎない。彼女は、それを見抜いたのかもしれない。

デドラは、前任の監査官よりも優秀だ。惑星フェリックスに自ら赴くと、「アクシス」の連絡先を知るビックスを捕らえる。そして、尋問で弱っている人間をわざと見せ、手短にビックスの口を割らせようとする。ルーセンの正体に迫りつつある。


シーズン1の終了まで、あと4話だ。キャシアン・アンドーという一人の人間を中心に繰り広げられていた群像劇も一つの物語へとまとまりつつある。予告編を見る限り、惑星フェリックスで、大きな戦いが起こりそうだ。ここからさらに盛り上がるだろう。


豆知識

アンディ・サーキス

囚人たちのボス、キノ・ロイを演じたのは、アンディ・サーキス。シークエル三部作では、モーションキャプチャーを使い、最高指導者スノークを演じていた。


ルースコット・メルシ

キャシアンと同じ班の囚人の一人は、ルースコット・メルシ。『ローグ・ワン』では、軍曹として、キャシアンやジンと共にスカリフの戦いに参加していた。


モン・モスマの結婚
今回、モン・モスマが16歳(か15歳)で夫と結婚したことが明らかになった。制作総指揮のギルロイ曰く「彼らは、お見合い結婚」であるそうだ。


Xウィング
ソウ・ゲレラ率いるパルチザンの基地には、黒いXウィングが泊まっていた。映画『ローグ・ワン』でも、パルチザンが黒いXウィングを所有していることが確認できる。


パルチザンのエイリアン

パルチザンの基地では、『ローグ・ワン』に登場したエイリアン兵士のトゥー・チューブと、モロフが確認できる。


ソウ・ゲレラ


パルチザンのリーダーであるソウ・ゲレラが登場。演じるのは、『ローグ・ワン』と同じフォレスト・ウィテカーだ。ソウは、アニメ、ゲーム、ドラマ、映画と多方面の映像メディアに出演している。今回のソウは、ゲーム『フォールン・オーダー』の9年後、アニメ『反乱者たち』の3年前の姿だ。


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画像は、ドラマ『キャシアン・アンドー』(2022年 Lucasfilm)より引用

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