9月21日、ドラマ『キャシアン・アンドー』が満を持して配信された。テンポが遅いことや、今までのスター・ウォーズと違う部分をやや否定的に捉える人もいるが、おおむね好評である。序盤は殆ど話が動かなかったので、三話同時配信という形は、ベストだった。一気に三つのエピソードを扱うと量が膨大となるので、この記事では、第一話部分の感想・考察・豆知識について扱うことにする。
「大人向け」スター・ウォーズ
製作総指揮のトニー・ギルロイが宣言していた通り、今作は、渋く、今までのスター・ウォーズにない雰囲気を持つ一作だ。冒頭の雨が降りしきる街は、サイバーパンクぽく、プリ=モー社の官僚主義はディストピアものぽい。
さらには、「売春宿」という大人向けの単語まで飛び出した。しかも、直接の言及はないが、アクリルドームの中では、人が商品として展示されている様子だった。妹は奴隷として売り飛ばされた上に売春を強要されているという展開になると思われ、なかなかにハードでダークで、大人向けだ。
この描写は賛否両論あるだろう。しかし、今までにない新しいスター・ウォーズであることは間違いなく、その点は評価しても良いのではないだろうか。知らない単語の連発も不評のようだが、「わからない」ことが増えた分、世界も確実に広がっている。
故郷で嫌われ者のキャシアン
今作にてキャシアンは、惑星ケナーリの文明化されていない先住民族の一員であることが判明した。どうやら、キャシアン・アンドーという名前も義両親から与えられたもので、「キャサ」が本名であるようだ。妹の名前を売春宿で訪ねているあたり、今後、名前とアイデンティティを絡めた話がありそうだ。
そして、注目すべきは、キャシアンが故郷では嫌われ者であることだ。惑星ケナーリでは、何らかの理由で周りの仲間から疎外され、女族長の計らいが無ければ、共に「狩り」に行くことも出来なかった。
惑星フェリックスでは、危ない橋を渡り、無理なお願いを連発することで、元カノ、元カノの彼氏、借金取り、船を貸してくれた友人、と周囲の人間から煙たがられている。さらに加えて妹や義母、B2EMOも喪失することは確実で、失うものもなくなったキャシアンが大義と反乱軍に全てをささげる展開になることは想像に難くない。
また、ケナーリとフェリックスの住民は、多くが黄色の衣装を身にまとっていた。キャシアンにとってどちらも「故郷」であることを視覚的に表す良い表現方法だ。
官僚主義への抵抗
プリ=モー社の捜査主任シリル・カーンの正義感や不安定さは見ごたえがあった。そして、彼が「官僚主義に逆らう人物」という設定は興味深い。
ご存知のように、映画『ローグ・ワン』までのキャシアンは、上の命令に従い、汚い仕事も引き受けている。まさに官僚主義に飲み込まれた人物で、ジン・アーソからは「ストームトルーパーと同じ」と罵られる。終盤、キャシアンは、ジンと共に「ローグ・ワン」として活動することを決め、負の官僚主義から逃れる。
今作の悪役であるはずのシリル・カーンは、序盤にして、すでに『ローグ・ワン』終盤で目覚めたキャシアンと同じ価値観を持っている。その正義感で、怠慢や保身を許さず、実際に第三話では殺人犯のキャシアンをあと一歩のところに追い詰める。もっとも、後の英雄が反乱軍に入るきっかけを与え、自分の組織を害してしまう、という皮肉な結末に終わるが。
後のキャシアンと同じ考えを持つシリル・カーンには、今後注目だ。悪役である以上、完全に正しいと描かれることはないが、完全に間違っていると描かれることもないはずだ。
豆知識
スターバード
ドラマのオープニングで表示されるロゴは、「スターバード」と呼ばれているマークのようだ。後の反乱軍でも、スターバードに手を加えた紋章が採用されたものである。
BBY
スター・ウォーズの映像作品としては、初めてBBYという紀年法が用いられた。これは、Before the Battle of Yavinの略称で、ヤヴィンの戦い、つまり『EP4/新たなる希望』の5年前であることを表している。
B2EMO
アンドー家に長年使えるドロイドB2EMOは、左の後輪だけ黄色だ。声の不調に加え、年季が入っていることをうかがわせる。
ウォバニ
『ローグ・ワン』から、惑星ウォバニの名前が登場した。この惑星は、帝国の囚人だったジン・アーソが強制労働をさせられていた場所。Obi-Wanのアナグラムでもある。